しんご

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのしんごのレビュー・感想・評価

4.0
大前提として1969年8月9日に起きた「シャロン・テート事件」を押さえないと本作のクライマックス及びエンディングは全く意味が分からないものになることは間違いありません。

題名に倣えば「昔々ハリウッドでね...」と始まる現実と虚構が入り交じった、不思議なおとぎ話。在りし日の映画少年がその映画愛を全て叩き込んで作った世界観は映画ファンなら思わずニヤリとする仕掛けだらけでとにかく160分の長尺があっという間。

バート・レイノルズをモチーフにクリント・イーストウッド等のエピソードをも盛り込み創作された落ち目の俳優リック・ダルトン。新しいキャリアを目指すが上手くいかず駐車場係や共演者の子役の前で感極まって涙を流すディカプリオのナイーブさはなぜか微笑ましく、NG出してるのにまだ撮影続くシーンには声を出して笑った。

それと対照的なクリフ・ブース役のブラッド・ピットの圧倒的な存在感。「悪名高い」と作中で言及されていた通り、画面越しに伝わってくる底の知れない不穏な雰囲気がたまらない。ヒッピーキャンプを訪れたシーンからその不穏さは加速度を増し、観客に何かが起きそうだと警告している。随所で見せるブラッドの不敵な笑みと絵に描いたようなタフガイキャラは危険な香りがプンプンだけどそこがとにかくカッコ良すぎる。

ただ、タランティーノはこの不穏さを本編に漂わせ続けたまま意図的に観客を焦らす。その「焦らし」が爆発する終盤はえもいわれぬカタルシス。「えっそういう展開なの?」と最後まで見事に裏切られたし、あの脚本はずるい。

タランティーノ版「ニュー・シネマ・パラダイス」とも言うべき、「映画好きの映画好きによる映画好きのための」娯楽作品。
しんご

しんご