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クリード 炎の宿敵のokomeのレビュー・感想・評価

クリード 炎の宿敵(2018年製作の映画)
4.0
「自分の道を諦めたら、自分ですら無くなる」


ちょっとまず『ロッキー』の話をさせて下さい。

『ロッキー』がどんな話かと訊かれれば、自分は「打ち勝つ物語だ」と答えます。
何に打ち勝つのか?
答えは1つ。他でもない、「自分自身」です。

うだつの上がらない毎日、自分を卑下し続けるような人生。それをどうにか変えたくて、ひとつ大きな挑戦に出る。まずその決心が出来たからこそ、主人公のロッキーはヒーローになる資格を得るのです。
もちろん、その先には困難な道が続いている。
何度も何度も挫けそうになるけれど、その度に自分を叱咤して立ち上がる。やがてその姿は同じ境遇の人々の心にも火を灯し、それぞれの場で共に戦う「同志」に変えていく。

そして、彼は遂に成し遂げる。
一片の心残り無く全てを出し切って、堂々と叫ぶ。「俺はbum(クズ)ではない!」と。

金や名誉なんて関係ない。
一度決めた事を、挫けずにやり切る。それが全てだと、ロッキーは観客に教えてくれます。
だから、試合の結果そっちのけで恋人の名前を叫ぶラストシーンや、テーマ曲『Gonna Fly Now』と共に階段を駆け上がるあのシーンが、どんなスペクタクルよりも感動的に映るのでしょう。

にも関わらず、誘惑に負けてチャンピオンベルトを巻いてしまった2作目や、判り易い「悪者」が登場しそれをやっつける事だけに終始するその後の続編が自分には許容できないのです。


前置きが長くなってしまったけれど、翻って今作、『炎の宿敵』。
まずCMを観た時、「やっちまった!」と思いました。まさか前述の続編群の中でも一番珍妙な4作目を引っ張り出してくるとは。しかも2世対決。
勘弁してくれよ!と。

前作『チャンプを継ぐ男』には間違いなくロッキー1作目の精神が受け継がれていました。
全員、何かしらの「恐怖」をその心に抱え込んだ登場人物たち。主人公ドニーは偉大な父親の影、その恋人はいずれ失う聴力。ロッキーすらも大病を患い、連れ合いを亡くした長年の孤独に打ちのめされてその治療を拒んでしまう。
しかし、ドニーの奮闘を契機に皆それぞれが自分の恐怖と真正面から向き合い、共に打ち勝つ。
だから、彼らの物語はそこで綺麗に完結しているはずなのです。それなのに、あえてまた「悪者」を登場させるなんて、まんま『ロッキー』の二の舞じゃないか。

そんな不満タラタラで臨んだ今作ですが……。


……すみません!!
すごく面白かったです!!

「戦うべき相手は自分自身である」、まさにそれ、そのものがテーマになっている。
「『ロッキー』の正統な続編」という謳い文句に相応しい、最高に熱い作品でした!


今回の敵となる相手は、他人を打ち負かす事を親に叩き込まれ、それのみが目的となってしまっている戦闘マシーン。そんな彼が、師によって正しく導かれたドニーと闘う事で救いを得ていく。
少し前に観た『ドラゴンボール超 ブロリー』と不思議とリンクしているような内容でもあって、否が応にも胸が高鳴りました。
途中でドニーも「他者を打ち負かす事」にとらわれてしまう展開もあり、(邪推かもしれませんが)続編で道を間違えた『ロッキー』を精算する意図もあったのだろうかとも感じます。


そうだよな、誰にでも間違いはある。一度偉業を成し遂げたロッキーたちですらそうなんだ。
選択と決断の連続の人生で、いつでも正しくいられるとは限りません。それでも、「これ!」と決めて立ち向かう意思と、志を共にしてくれる友人を手放してはいけない。

そんな事を改めて教えられた気がします。
真面目に生きようと思いました。
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