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殺陣師段平のCisaraghiのレビュー・感想・評価

殺陣師段平(1962年製作の映画)
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殺陣のよさがほぼ全くわからない殺陣オンチなのに『殺陣師段平』を観る。大正6年というあまりTV・映画で見た覚えのない時代の日本を舞台にした、長谷川幸延の戯曲の映画化。脚本は黒澤明。主演・中村鴈治郎が演じる殺陣師・市川段平も、助演・市川雷蔵が演じる新国劇を立ち上げた澤田正二郎も実在の人物で、澤田は雷蔵と同じく若くしてこの世を去っている。新国劇は、舞台上でのリアルな立ち回りが受けて特に男性客に人気だったらしい。(新国劇の「国劇」とは歌舞伎を指すとのこと。) 大正6年という時代の進取の空気が澤田にジレンマをもたらし、引いては職人気質の段平を追い詰める、という話に思えた。

鴈治郎演じる段平が、『ディアピョンヤン』に出ていたヤンヨンヒ監督の可愛気のあるお父さんによく似ている、と思った。田中絹代演じる、憎まれ口はたたくけど甲斐甲斐しく朗らかな奥さんとの“ああ言えばこういう”的な、ボケとツッコミみたいな関係性も似てるのかも。田中絹代、大阪弁上手いと思ったら大阪育ちだった。

雷蔵映画としては、眼鏡をかけて演技している、というのが何といっても貴重。写真でよく見るのは銀行員みたいな眼鏡の雷蔵だけど、映像で見るとまた全然違って、まーホント端正な、ヨン様を凌ぐ眼鏡の色男雷蔵が拝める。劇中、主演として新国劇の舞台に立つ雷蔵も見どころなのかも。演技は根がふにゃっとした雷蔵さんが澤田の骨っぽい大物感を出そうと頑張っている、という印象。

“新スター”高田美和15歳の熱演が初々しい。いかにも人情ものでございますという音楽による演出が古臭いけど、それも新国劇らしさのうちなのかな。おかみさんの人情の深さ、温かさが心に残る。さすが田中絹代だった。

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