亘

父、帰るの亘のレビュー・感想・評価

父、帰る(2003年製作の映画)
3.7
【父という存在】
イワンとアンドレイの前に12年ぶりに父が姿を現す。父は2人と小旅行に連れ出すが、不愛想で抑圧的。それでも父に好意的なアンドレイに対して、イワンは露骨に父に反抗する。

うまくコミュニケーションの取れない親子のすれ違いを描くとともに父を知らないイワンから見た父性を描いた作品。兄アンドレイが父に好意的な一方、弟イワンは父に反抗心を見せる。というのも父は、封建的で不愛想でしつけと称してお仕置きをする。イワンにとっては、きつく怒られても、12年間も家族を放置した人に従えないという意思表示なのだろう。それに初めて出会う"父"が理解できない。とはいえすれ違い続けた末に後戻りできなくなる不条理な結末は悲しい。

アンドレイとイワンは母子家庭で育った。父は12年前に家を出たきり音信不通で家族も父を半ばないものとして暮らしていた。しかしある日父が家族の前に現れる。そして息子たちと分かり合うために小旅行に出かけようと提案する。

きっと父の記憶もあるのだろうアンドレイは、父との再会を喜び、父にも好意的な態度を見せる。父の質問にもしっかり返答するし、言いつけを守ろうとする。一方イワンは父を憎んでいる様子。12年間も放置された末に急に現れ抑圧的な態度をとり急に都合で小旅行を中止しようともする、そんな父の身勝手な行動に腹が立っているのだろう。イワンが反抗的な態度をとればとるほど父も態度を硬化させる。雨の中何もない道に放置したり食事をとらせなかったり、まさに「昭和のがんこ親父」のよう。それに母親とは違う指導にも抵抗があるのだろう。父の指導も一理あって、彼なりに息子たちにしっかり育ってほしいのだろうが、不愛想だから上手く伝えられないのだ。そんな父なりの悲哀も感じるが、見ている側からすると父には苛立ってしまう。

父が連れてきたかったのはとある小島。船で島に渡りキャンプをしようという計画だったのだ。しかしここで父のしつけでアンドレイがお仕置きされる。イワンとしては、これ以上父の横暴には我慢できない。「違ってれば好きになったのに」という言葉を残して逃げる。父もようやくイワンに歩み寄り始めるが、イワンを追う途中あっけなく展望台から転落してしまう。イワンは一転して父の死を悼み父に歩み寄り始める。生きてる間には歩み寄れず、後戻りできなくなってから歩み寄り始めるのだ

まさにすれ違いが生んだ悲しい不条理な結末だった。「父はなぜ今さら帰ったのか?」というイワンがずっと抱え、また父を憎む一因でもあった謎は解決されずじまい。それでもラストで父の車から兄弟の写真が出てくるように、父がずっと兄弟のことを思っていたことも確かだし、息子たちとの再会を楽しみにしていたはず。きっと父側としても、父としての接し方を忘れていたのだろう。

イワンにとって父は物心ついたころにいなかったし、父がいないことが当たり前だった。だからこそ彼にとって"父・父性"とは謎の存在だったのだ。そして彼は父性を直接知る機会を失った。"父"はいつまでもイワンの心に謎を残すだろう。

印象に残ったシーン:イワンが展望台に上るシーン
印象に残ったセリフ:「違ってれば好きになったのに」;父がイワンに歩み寄り始めるきっかけのセリフ。
亘