Oto

ヘレディタリー/継承のOtoのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.0
高橋洋の「ホラー表現の鉄則」
①顔をはっきり描かない
②普通じゃない所にいる
③平面的に描く
④幽霊の主観目線を入れない
⑤悲鳴をあげない
⑥一部分を意図的に伏せる
⑦状況説明なしで出来事をすぐ描く
⑧因縁話にしない・理屈をつけない

を思い出すと、意識しないでみていたけどほぼ網羅されている。ほんとに豊富で多様な王道的表現×個人的で斬新なテーマで新しい恐怖体験を作っている。
①:柵の向こう側の遠くから罵倒してくる。事故後の後部座席や母親の反応を映さない。蟻に覆われてよく見えない肌(『アンダルシアの犬』)。首を引っ張るのも手だけ。目に反射する暖房の赤色。降霊時にも音と風のみ。光だけが彷徨う。陰に潜む何か。首が切り落とされて顔が見えない。
②:チャーリー、母の異形な顔。ケーキを食べ、喉の腫れに苦しむ姿。傾いた画面と、取れる頭。屋根裏の入り口を頭突き。教室で固まる手、反射する笑顔。首を吊って首下を切り落とす。終盤は重力法則を無視(もはやギャグ)。
③:薄く浮かび上がる祖母や娘。
④:チャーリーの霊が現れるとき、犬の目線はあっても、チャーリーの目線はなし。
⑤:事故後には無言で涙だけが垂れる。夫が燃えた後の無言の叫び。
⑥:チャーリーの猟奇的な行動の意味は不明。遺体がどうなったのか?しばらく放置。ミニチュアの目的も詳細がわからない。ラップ音のようなBGMもどこから鳴っているかわからない。夢遊病だったのか...という怖さもあり。母親が黒幕の存在に気づいたときには周りに信じてもらえない「ガスライト」的な面白さもあり。
⑦:いきなり不穏な葬式だし、チャーリーはガラスにぶつかった鳩の首切ってるし、そもそもOPのミニチュア怖すぎだし、母も自助サークルでドン引きされる。
⑧:そもそも祖母との因果関係が不明、だからこそ後半の自助サークルのおばさんの恐怖が増す、そして最後の儀式へとつながる。手帳と暖炉との関係も謎、だから父が燃える恐怖がある。喉の痛みの原因やチャーリーが鳴らす音の意味も不明。

でもやはり、霊的なものよりは人が原因の恐怖が優っている印象ある。妹を過失で殺してしまう、それを理由に母親から恨まれる、そして突然降霊術をやりたいと言われる、実際に成功してしまう(ミッドポイント)、親しかった近所のおばさんがやばいとわかる、なのに家族が信じてくれなくなる、母親から襲われる...。開始30分であの事故が起きていて、「祖母を失った悲しみから」サブプロット的に「娘が息子のせいで失われた悲しみ」へとシフトしていく。
自分が一番怖かったのも、地獄の夕ご飯のシーン(食事を撫で続ける母親の描写)と、帰宅した自分を見ているのかわからない車中の母親。『普通の人々』『叫びとささやき』『雨月物語』の影響だとか。最近だと『ゲットアウト』とか雰囲気近いと思った。

最も身近で最も愛して欲しいと感じる家族から「産みたくなかった」と言われたり、意図せずに殺してしまったり、襲われたり死人が重なったりする恐怖はたしかに人間にとって最も大きなものかもしれないと感じた。その発端が霊的なものなのか人が操っているものなのか、現実なのか虚構なのかわからないという怖さも同時に持続している。
いやでも、どちらにしてもこの恐怖は映像にならないとわからない部分が大いにあると思って、これにGOを出したA24の偉大さもあるよね、傑作短編がたくさんあるとはいえど。

ラストの生贄描写(祝祭)は『ミッドサマー』にも通ずるアリアスターらしさだと思うけれど、自分が容器としてのっとられたり、母親の動きが完全にフィクションラインを越えるので、呆気にとられたまま終わった。「処理できない不可解さ」を最後に暴走させて、解決したようで全然解決せずに終わらせるという意地悪さ。

ミニチュアの小道具としての使い方も唸った。見たくないから裏返す(ことでカメラに向けられる)、隙間から覗くことで成立する切り返し。箱庭療法もそうだけど「決められた運命に抗えない人間たち」の象徴であり、他者に自分を支配される恐怖を描いているのも作家性。ずっと家族の話を描いている。
自助サークルの話を聞いて、まず家系がめちゃやばいやん!と思ったけど、「継承」ってめちゃめちゃ残酷で、病気に限らず親を選べないという怖さを最大限にするとこうなるんだなぁと思った。監督自身の弟とのパーソナルな関係性が元になっていると聞いて、この才能にも底知れぬ恐怖を感じる。ハネケやトリアーもだけど、そりゃダメでしょという地獄を描き切れる作家の創造性がどう生まれているのか興味がある(トラウマのセラピーとアリアスターは言うけれど)。
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