パッドマン〜5億人の女性を救った男
2018年 インド
監督:R・バールキ
出演:アクシャイ・クマール(ラクシュミ)、ソーナム・カプール(パリー)ほか
現在、日本の一般的な住宅には
システムキッチンと呼ばれる、機能や効率を重視した
清潔で洗練されたデザインの「台所」を設置している家屋が殆どである。
この「システムキッチン」という台所は
昭和40年代に団地が増えたことで普及したと言われる。
それまで「台所」というのは
リビングなどの居室から一段下がった
北側の寒い土間や板の間などにあり
「となりのトトロ」のさつきの家のように、井戸水のポンプが引いてあればまだ良い方だった。
トトロでも屋外の井戸で米を研ぐシーンや
勝手口から出た屋外で七輪を使って魚を焼くシーンなどがあるが
料理は主に屋外か、軒下で行うのが当たり前の時代が
戦後の昭和まで続いたのが分かる。
一般家庭用の流し台を製造する会社で開発を担当する男性が
昭和30年代頃(ちょうどトトロと同じ時代だ)自分の奥さんが
昔ながらの「土間の台所」を使っていて
その効率の悪さや衛生問題
何より奥さんの辛そうな姿を見て
ドイツで開発されたシステムキッチンを自社で開発することを考案した。
しかし…
当時の会社の上層部の人間は
「そんなことをしたら、女が怠ける」
という理由でなかなかOKが出なかったという。
同じ理由で「炊飯器」や「布団乾燥機」「食器自動洗浄機」といった製品によって「女によい環境を提供する」ことを、それを開発した家電メーカーの当時の幹部達は渋ったらしい。
今でも
「インスタント調味料を使う女はダメ」
とか
「母乳ではなく粉ミルクを使うのは母親失格」などという
「女が苦労をしないのはけしからん」という風潮が存在する。
挙句の果てには
「生理の経血を垂れ流す女はだらしない証拠。きちんとした女なら(気合いで)経血の排出を制御できる」といった
まるで修行僧の苦行を強いるような「呪い」まで言い出す輩がいる。
まさに
この映画は、そんな「女への呪い」に取り憑かれた社会を浮き彫りにする作品だ。
インドでは、生理中の女性は「穢れた存在」で
家の中にも入れず、バルコニーに作られた「専用の小屋」で、生理が終わるまで過ごさなければならない。
生理の経血は使い古したボロ布で受け止め
洗って干すときも見えないように干した上から布を被せ
紫外線消毒も行わない。
かつては日本でも
「生理中の女性の過ごす部屋」がある地域が存在した。
更に「出産後に決まった期間留まる小屋」があった地域もあった。
女が股の間から流す血は穢れていて
家の中や寺院などの「聖域」に入ってはいけない、という考えは
現在の日本でも
相撲の土俵や
甲子園のマウンド
沖ノ島や
歌舞伎の舞台や
天皇の公式典範(明治以降)などにまで
様々な場所に存在する。
本作の主人公ラクシュミは
結婚して自分の奥さんがそういう「呪い」に縛られていることに初めて気付く。
そしてその呪いから解放してあげようと努力するが
奥さん本人がそれを拒否する。
「そんな恥をかくくらいなら自殺した方がましだ」と。
自分の人権よりも習慣が優先される社会。
しかし、日本もこうやって書いてみると
たいして変わらないではないか?!
本作では、生理用ナプキンの製造方法から普及、それによる女性の雇用から自立などにも1つの方向性を提案していく。
社会の習慣よりも
女性の生理機能の方がよっぽど歴史が長く普遍的な事象にもかかわらず
それへの対応が疎かだったことにやっと意識が向いていこうという機運が生まれる。
日本ではどうだろう。
女性の生理機能への配慮は、先進国らしく行き届いていると言えるだろうか?
生理が規則正しく毎月あることによって
体調管理や、妊娠や出産までも影響することを
とうの女性本人がしっかり自覚しているだろうか?
そして男性は、そんな女性たちの綿々たる生理の繰り返しのリズムから
その血の滴る女性の股の間から
生まれたことを忘れてはいないだろうか?
新しい元号の時代
女性への理解がすすみ、呪いから解放される日が近いことを祈る。