たけのこ

希望の灯りのたけのこのネタバレレビュー・内容・結末

希望の灯り(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【登場人物の生死に関するネタバレあり】

作業着に袖を通すシーンの繰り返しで表現される単調な日々。食品スーパーのバックヤードという地味な舞台設定ですが、本作ではそこで働く人々の営みを丁寧に映し出すための良い効果となっていました。

異性との付き合いにあまり慣れていない男性が、マリオンのような年上の女性にノボせあがるのも良く分かる気がします。彼女にはその気がなくても、気弱な男性をからかうような視線や表情、ボディタッチなどが思わせぶりで、“DTゴロシの色っぽい人妻”みたくなってます。罪作りな女性ですね(笑)

根が真面目で勤勉な感じのクリスティアンのキャラ造形には好感が持てました。誕生日チェックからのサプライズ演出や、「それだけかい!」とツッコミたくなるような“イヌイットの挨拶”にはDTっぽさを感じましたが、一方で他人の住居への不法侵入を慣行したりとか、奥手なんだか大胆なんだか良く分かりません(笑)“バースデーケーキ”を業務用カッターでグチャグチャに切り分けるシーンには笑いましたが、酸いも甘いも噛み分けたマリオンであればそんなことぐらいでは動じないのでしょうね。むしろいくらでも手玉に取れそうなクリスティアンのウブっぽさに、DV夫にはない魅かれるものを感じたのだと思います。

「何でも自分のせいばっかりだと思わないで!」というマリオンのセリフが、何事も自分視点の狭い世界に生きるDT青年に刺さる感じで良かったです。


ブルーノの死を知ったクリスティアンがどのように感じたのか? いちばん興味深いところでした。明示的な表現はありませんでしたが、

「自分が人妻さんとの“イヌイットの挨拶”にノボせあがっている間に、ブルーノがそんなにも悩んでいたなんて、一番そばにいる自分がなぜ気づいてあげられなかったのだろう? 」

「なぜ彼は自分に打ち明けてくれなかったのだろう? 」

「自分は彼にとって所詮その程度の間柄に過ぎなかったのだろうか?」

などなど、色々なことを思ったのでしょうか。そのような内省が、ラストでの“他者視点の獲得”に繋がっていくのでしょうか。

劇中ではクリスティアンの性的なざわめきを表現していた“波の音”が、ラストではクリスティアンとマリオンが二人で耳を傾けるリアルな音として登場します。クリスティアンは「この音になぜ今まで気づかなかったのだろう」と呟く。監督がこのラストに込めたメッセージは何だろうか…? 何事も自分視点でしか見えてなかったDT青年が、小さいながらも仕事を任され、人との交わり、出会いや別れの中で、他者と共有し得る視点を獲得していく。一歩踏み出すニートの物語、そんなことを考えました。
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