このレビューはネタバレを含みます
ファシズムの嵐が吹き荒れるドイツからパリに逃れた青年ゲオルク。ドイツ軍のフランス侵攻を受けて国外へ逃れるべく港町マルセイユへたどり着く。そこでは受け入れ国を求める人々が先の見えないまま不安な日々を送っていた。
ナチス支配下のドイツから亡命した作家の小説が下敷きになっているが、現代劇に置き換えられ難民問題へと焦点が変えられている。ただ、いわゆる社会派の映画というよりは不条理劇のようだった。
ひとつの出来事が次の出来事のきっかけとなって物語が続いていくのだが、円を描いてまた戻って来るだけで誰もそこから抜け出せない。3人分の乗船券とヴィザは整っているのに、2人の男と1人の女は旅立とうとしてはまた引き返すことを繰り返す。
ドイツ軍が迫る中、ゲオルクと同じくマルセイユで足止めされていた人たちのある者は心臓発作で死に、ある者は自ら死を選ぶ。ゲオルクの死んだ友人の妻と息子だけは姿を消すのだが、マルセイユを去ることができたのかはわからない。
主人公がいうべきことを女に伝えれば丸く収まるのだが、彼は自分が彼女の夫になりすましたことを告白できない。女の方も、愛人と去るのか夫を探すのか決めかねている。もどかしさが極限に達した時、やっと主人公は2人を旅立たせる決心がつくのだが…
2人を船に乗せてやっとケリがついたと思ったらまた女が姿を現し、「えっゲオルクは自分が逃げるのを諦めて乗船券を譲ったのに…」とガックリしたのだが、実は船は沈んでいた…というオチの衝撃でそれまでのじれったさとかイライラとかが吹っ飛んでしまった。