Punisher田中

ウトヤ島、7月22日のPunisher田中のレビュー・感想・評価

ウトヤ島、7月22日(2018年製作の映画)
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2011年7月22日、ノルウェーの首都オスロの中心部にある首相府および法務・警察省庁舎付近で起きた爆破テロ。
さらにそこから少し離れたノルウェー労働党青年部のサマーキャンプが行われていたウトヤ島で起きた無差別銃乱射事件を元にした作品。
この連続事件による死亡者は77人とされており、心的外傷を負った人の数は300人以上と言われている。
無差別銃乱射事件の生存者が語るエピソードをカヤという架空(?)のキャラクターを主人公に描いたフィクション。

一方的に理由なく虐殺の対象にされる恐怖。
彼ら彼女らが、いつものようにくだらない談笑や討論をしている中、いきなり響き渡る銃声。悲鳴とともに逃げ惑う少年少女達。
突如として楽しい筈のサマーキャンプから一転、虐殺が始まる非日常へと転落していく様は非常に恐ろしかった。
誰も抵抗する術を持たず、銃を持った圧倒的強者から一方的に蹂躙される様子は詳細が見えずともおぞましく、吐き気を催す程リアル。
ワンカットで撮影された臨場感あるブレブレのカメラワークは、僕達を""その場にいる""という感覚を与えており、残虐なリアリティが精神をエグりに来る。
画の中に直接的な描写は少なく、犯人がはっきり写る場面も無い。
ただ逃げ惑う人々、慟哭、悲鳴や痛みによる悲痛な叫び、地面に転がる死体など間接的な描写ばかりだが、こういった間接的な描写がこの事件の残虐性、カヤを通して共有される不安や恐怖、緊張をしっかり表現していた。
生存者誰もが口を揃えて言う""永遠に感じられた72分間""
それは一切助けも来ない、何も出来ない、逃げる場所はないという状況をワンカットで映し出したことで、僕達をカヤと対等な立場にし、恐怖や不安から逃げることすら出来ない状況があるという真実を叩きつけられる。
劇中での銃声は実際に事件で犯人が発砲した540発の銃弾の数と合わせているという凄まじい徹底ぶり。

あくまでフィクションとして今作を描いたのは、この残酷な事件を時間の経過で風化させない為であり、反テロ映画としての役割もしっかり果たしていると感じられた。
また、この事件については「7月22日」も是非鑑賞して知って欲しい。
今作は事件自体をメインに描いた作品だが、「7月22日」は事件後についての作品となっている。
エリック・ポッペ監督は今作に関して「カメラは観客自身でもあるのです。映画の冒頭、カヤは携帯で母親に「聞いて」と話していますが、一瞬だけカメラ目線になります。あの言葉は監督である私から観客へのメッセージでもあるんです。この物語を観て、この事件を知って、自分が何をなすべきか考えてほしいという思いがありました。」と述べている。
今作はフィクションだからといって決して「面白い」「面白くない」といった物差しで測るべき作品ではなく、どうか事件を理解する手段として今作を見て欲しいと心から願う。
今作の事件は違う人種・国が違えども、日本でも無差別殺人事件があらゆる場所で起きており、決して他人事とは言えない。
思想が人を殺す理由には決してならない。
残酷な悲劇が2度と引き起こされないように。
どうか、今作を見て知って欲しい。

今作鑑賞後の方はこちらの記事も是非目を通すと今作に対する理解が深まるかと思います。
https://realsound.jp/movie/2019/03/post-327661.html