開明獣

家へ帰ろうの開明獣のレビュー・感想・評価

家へ帰ろう(2017年製作の映画)
5.0
劇場で観てあれだけ面白かったのにレビューしてなかったのを発掘するシリーズその2

公開当時、ほぼなんの前情報もなく、劇場のスケジュールを見たら偶然やっていて、なんとなく観たら、ライフタイムベストの20以上には入る傑作だった。自分にとって、「ソフィーの選択」と並ぶ、ホロコースト関連映画のベスト。

2次大戦時にポーランドのユダヤ人が言葉に出来ないような迫害にあったことは、様々な映画や書物で取り上げられていて、知ってる方も多いと思う。ポーランドからアルゼンチンに希望を求めて亡命したひとも多かったそうだ。

主人公は、そんなアルゼンチンへの亡命者の一人。仕立て屋として一家を支え、亡命から70年後の88歳で多くの家族に囲まれて引退を決意する。

忌まわしき過去を封じるかのように、「ポーランド」と「ドイツ」という言葉を口にしない主人公は、引退目前にして、売却予定の家を整理していてあるものを見つける。それに関わる、かつての大事な約束を思い出し、意を決してポーランドへと単身旅に出る。

色んな困難に立ち向かいながら、旅先で出遭う人達の優しさに支えられて老人の旅は続く。

温かなユーモアに包まれながらも、正義とは、優しさとは、そして赦しとは、色んなことを問うてくれる作品。特にドイツ女性との邂逅のエピソードは胸を打つ。時を超えて民族のしがらみをこえて、人は分かり合えるはずだというメッセージに共鳴する人は少なくないはずだ。人間賛歌の王道を堂々と唱道するこのロードムービーは、誰に恥じることもなく、涙なしでは見れぬ傑作として推薦できる。

主人公が、仕立て屋さんだけあって、とてもお洒落。色々なデザインのアスコットタイが目に嬉しい。

希望を失った時や、気持ちの良い涙のカタルシスで浄化されたい時、私はこの作品を再び堪能する。
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