岡田拓朗

止められるか、俺たちをの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

止められるか、俺たちを(2018年製作の映画)
4.3
止められるか、俺たちを

ここには映画と青春があった
でも私はなにをみつけたんだろう

白石監督×門脇麦主演でかつ、題材的にもかなり楽しみにしていた作品。
2012年に亡くなった映画監督の若松孝二が設立した若松プロダクションの再始動第1作目として制作された。
1969年の若松プロダクションを舞台とした青春映画。
主人公の若松プロの助監督・吉積めぐみを門脇麦が演じ、若松プロ出身の白石和彌がメガホンを執り、同じく若松プロ出身の井上淳一が脚本を手掛けている。

とにかく熱量が物凄かった!
若松監督についてはそこまで知らなかったが、大手プロダクションに対抗するかのように自分たちの映画を突き詰めていくその姿勢は鑑賞するものを魅了する。
自分もその魅了された一人である。
当時のあらゆる分野で世の中に反骨精神むき出しに活動していた人たちも少しだけどあわせて観れてよかった。(大島渚監督(高岡蒼佑)が出てたのが特に!)

今作はそんな中で、若松監督に、若松監督の作品に魅せられた吉積めぐみ(門脇麦)を軸に、様々な目的や背景のもと、若松プロダクションに集った人たちのそれぞれの人物像やスタンスを出しつつ、葛藤などを抱えながらも、本気で世の中を変えるために奮闘している様が描かれている。

実在した/している人たちが出ていることから、かなり忠実に再現されていることが予想される。

主人公のめぐみは、なりたい姿はあるが、やりたいこと(撮りたいもの)がなくて、助監督として奮闘しているが、もやもやを抱えていて、どこか日々思い悩んでいる。
それでもそんなことをゆっくり考える間もなく、めくるめくように日常が過ぎていく。

そんな中、若松プロダクションの目指している方向性に合わなくなってくる人やその厳しい破天荒なやり方についていけなくなる人、世のレールから外れることが怖くなる人…様々な理由から辞めていく人が出てくる。

基本的に去る者追わずで来るもの拒まずの若松プロダクションは、なんやかんやでよい具合に人が行き来してちゃんと回ってる。

それでも我が道を進むだけでは成り立たなくなっていく若松プロダクション。
自分たちの追い求める世界観、やりたいこととお金を稼がないといけない現実との間の葛藤で揺れ動きながらも確かに前に進んでいく。

また、世間一般に求められていることと自分たちが追い求めていることのギャップが彼らを悩ませるが、彼らは自分たちの創っているもの、目指している世界観への自信がたぎっていた。

あえて難しいメッセージ性を持たせるピンク映画、犯罪や事件のその裏側の背景や本質にまで迫り表現していくクライム映画、そして触れてこられなかったテーマを用いたドキュメンタリー映画。
万人には理解されないかもしれないが、確かに熱の強いファンを作りたり得る要素が散りばめられていて熱くなった。
白石監督のあの魅力的な数々の映画の原点はここにあったんだ。

やはりその時代を映したアート(映画)には、何かしらの作り手のメッセージが込められいる方が見応えがある。
それを受け手側は熱量とともに受け取ろうとする。
そこでキャッチボールが生まれる。

いわゆる商業的映画も悪くはないし、たまに観たいと思うことはあるが、やはり何かしらのメッセージを込めて作り込まれた作品の方が没入できる。
それか極限までリアルを追求したドキュメンタリー。

決して商売としての映画を追求しているだけでは、本当の意味で人の心は動かすことはできない。
世界を変えるなら、そもそも大衆にまず観てもらわなければ意味はそこまで成さないのかもしれないが、熱を持って創ったものは誰かには絶対に響くものがある。
そこから徐々に時代が変わっていけばいい。

若松プロダクションとして少しずつ歩みを進めていく中で、ずっと煮え切らなかっためぐみ。
切なさの残るラストを迎える。
やっぱり彼女は最後まで自分の撮りたい映画がわからなかった。
いつか監督として活動することを願いながらも、ただただ惹かれたものについていき、全力で突き進んでいく毎日。

そこには確かに映画と青春があった。
でも本当に何を見つけたんだろう。

そんな人生切なかったかもだけど、それも結局は彼女の選んだ道で、それでよかったんじゃないかなと思った。
この熱量をもっと自分も、もっとブラッシュアップして持てるように頑張っていきたい。
少し後押しされたような気分にも浸れた。

P.S.
門脇麦ってどこまで魅力的なんだ。
あの熱量と悩んでいる様を余すことなく体現できるのはおそらく彼女だけだろう。
めぐみの役は彼女以外にあり得ない。
井浦新は有名になってきても、本当にこのような作品に出続けて欲しい。
高良健吾みたいに。
俳優の熱量までもをしっかりと感じ取れる作品。
「止められるか、俺たちを」というタイトルがかっこよすぎる。
このような映画がもっとたくさんの人に届いて欲しい。
理解不能かもしれんけどできるだけ理解しようとして観て欲しい。
岡田拓朗

岡田拓朗