ミーハー女子大生

バーニング 劇場版のミーハー女子大生のネタバレレビュー・内容・結末

バーニング 劇場版(2018年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

2018年の韓国映画。
村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を原作とする実写化作品。
NHKにて年末にテレビドラマ版(カットあり、劇場版にはドラマ版の後日談的ラストがある)
監督はイ・チャンドン。
脚本はイ・チャンドン&オ・チョンミ。

物語は主人公イ・ジョンス(ユ・アイン)が、街角で幼馴染のシン・ヘミ(チョン・ジョンソ)と再会するところから始まる。
ヘミは今度アフリカ旅行にいくから、猫の面倒を見てほしいと言う。
そして帰国の電話があり迎えに行くと、彼女はナイロビ空港で出会ったと言うベン(スティーヴン・ユァン)という若い男と一緒だった。

物語は恋人未満の関係だったジョンスとヘミの間にベンが割り込んでくるところから動きだす。
肉体関係はあるものの、いまだ関係性の発展しない二人だったが、ヘミとベンの距離は近づきつつあった。

ベンにとってのヘミはどちらでも良い存在で、暗喩として登場する「ビニールハウス」のようなものである。
ベンの言葉を借りれば「古くなった他人のビニールハウスを燃やす」であり、「ビニールハウスは燃やされることを待っている」とも言う。
暗喩ではあるものの、燻っているヘミを燃え上がらせるのは楽しみとし「遊び」と言う。
そして行方不明後は「煙のように消えた」と表現する。
直接的な見方をすれば「ヘミの失踪理由に一番近い存在」であり、ジョンスは状況証拠から「ヘミを殺した」と思い込む。

この映画の謎とラストシーンは観客に委ねらる形で想像を掻き立てる。
ヘミの自殺&失踪説、犯人ベン説、ジョンスによる妄想説などが湧き上がり、どれも真相に近いように思える。
この考察を書くための余白はないので結論だけ述べるが、「後半はジョンス妄想説あるいは描き始めた小説」説を唱えておく。

元々この映画は「ジョンスがリトルハンガーからグレイトハンガーへと変貌する物語」である。
「空腹状態から人生の意味を考える」という暗喩であり、これはヘミが旅先で知った現地の思想に感化されたと言える。
ジョンスにとっての空腹は「経済」「性欲」「恋人」など満たされないもので溢れている。
「家族愛」もないし、「夢」も途上である。
そして彼がグレートハンガーへ変身するきっかけは「ベンの告白」である。
「ビニールハウスを燃やす」という告白をそのまま受け取ったジョンスは、近くのものを燃やすと言われてそれらしいところを探していく。

だがそんなものはなく、ベンに「とっくに燃やしたよ。近すぎてわからなかったかな」と言われて、初めてその対象がヘミであったと思い込む。
そこからは状況証拠を集めただけのジョンスの思い込みである。
彼の妄想部分は「ベンとヘミを繋げるもの」であり、それは「一度も見ることがなかった猫」「あげたはずの時計」ぐらいである。
新しい彼女がヘミ失踪後にできたのか、その彼女が原因でヘミが去ったのかすらわからない。

ジョンスはベンの言葉を受けて過去と自分を詮索する。
不要に思える父の裁判シーンは、自身の詮索の一環であり、それは反面教師として見ていた父との決別と同性であることの確認でしかない。
母の唐突な登場も家族との決定的な離散を示し、ジョンスが最後まで拘った「井戸」について知るためだけに存在している。
「井戸」は「枯れ井戸」だったために誰にも認知されていなかった。
「井戸」はヘミの心情のメタファーであり、それは「彼女の内なる声」である。
ヘミは「井戸」を語ることで、「助けてほしい」とジョンスに言っている。
だがその声は彼には届かなかったのである。

いずれにせよ、3時間程度の長尺なのに集中力を要する内容である。
時間が長く感じることはないが、直接的な表現がほとんどない映画なので、解釈は多岐にわたる。

ラストシーンで彼が衣服を全て脱ぎ捨てたのは「覚醒」を表し、「過去の自分との決別」を意味している。
ベンを殺したのは、自身がグレイトハンガーとして生きることへの入り口に立った(=小説を書くことで精神世界に入り込む)という暗喩であろう。

「小説家は出来事を楽しむでしょう」というベンの言葉がある。
だからベンはジョンスに話したとも語る。
ベンはジョンスが出来事を知って、彼ががどう動くのかを楽しみにしていた。
ベンが本当に燃やしたのはジョンスである。
それは嫉妬に狂う愛されない男である。
そう考えると、ラストに至るジョンスの行動はすべて彼の想像であり、自分ができなかったことを「小説(妄想)の中の自分」にさせているのではないか感じた(特に状況証拠が揃う辺りは誇大妄想に見える)。

そして最後の殺人は彼が本当に起こしたかも知れないし、それすらも小説や妄想かも知れない。
だがそれはどちらでも良いことである。
あの瞬間、彼は本当の意味でグレイトハンガーになってしまった。
グレイトハンガーになったということは「状態的に空腹」ではないということである。

ストーリー 3
演出 5
音楽 4
印象 3
独創性 3
関心度 5
総合 3.9