るる

ビリーブ 未来への大逆転のるるのネタバレレビュー・内容・結末

ビリーブ 未来への大逆転(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ズーーッとしんどかったんだけど、「私がなりたかったの!」という叫びが一番つらかった。私が!やりたかったの!と頭の中で変換されてこだまして、なんか、記憶を刺激された。

しかし、年代のテロップが出るたびきつかった、この状態が!何十年も!?と思うと。辛い。しかし、ご存命なのがまたすごい、本当に、切りひらいてきた方なんだな…と。公開予定のドキュメンタリーも見たい。

選択的夫婦別姓を求める裁判を起こした、サイボウズ青野社長を含む原告団が先日敗訴したことを思い出しながら見ていたので、もうずーっと、私にとっては、いまの日本の話であった、つらかった。しんどかった。
結婚に伴う半強制的な改姓、そのために猥雑な手続きを迫られる、不均衡の是正緩和について、みんなが大好きな肩書き・有名IT企業社長、男性が訴えてもダメだった、この現状、マジでしんどいなと思っているし、
かねてから声を上げてきた女性たちの歴史を知らないまま、気付かないまま、まるっと無視して、声を上げた男性を讃えている、女性たちはなにしてるんだといけしゃあしゃあと言えてしまう、先進的なつもりの男性たちを、うっっすらと軽蔑しているもので…フリーライドするにしても弁えるべきだろって思う、これは自戒だけど。

とにかく、ずっといまのことを考えていた。

『スパイダーバース4D』『キャプテン・マーベル』『ブラッククランズマン』の後に見たから、パーティーの給仕として黒人が映ったときには、あ、誤魔化してない、と思いつつ、固唾を飲んでしまったし、キャプテン・マーベルことキャロルことヴァースの置かれていた境遇について、丁寧に解説するような内容で苦笑してしまった。あるあるがこれでもかと。
時代の変化について子供から気付かされる描写も、肌感覚に合ってリアルで良かった。スパイダーバースで、「所長は(その男性じゃない)こっち(女性)だよ」と少年に指摘された中年男が「OK、俺は偏見を捨てる」と言った描写といい、現代らしかったと思う。

アーミー・ハマーは『君の名前で僕を呼んで』でいけすかねえ男をやってたイメージで、完璧な男に見せているな、騙されないぞ、となんとなく警戒してしまうんだけど、
おっさんたちが、男が料理・子育てなんて、と言っていた時代にも、料理・子育てを当たり前にする若い男はいた、ちゃんといたし、いるよ、見えていないだけだったのでは? 知らないだけでは? というのは、現代日本そのままだと思った、上手い描写だった。そりゃ、他人を見下して変人扱いするようなあなたたちにはそんな一面、見せませんよ、っていう。

家事をする夫を過度に礼賛しないし、夫のほうも、俺だって家事なんて女々しいことをやってるんだぞ、なんて愚かなことを言い出さない、いまの映画だった。もうそんな衝突は乗り越えたんだな…
(その点、日本のドラマも、男性の家事描写については頑張ってると思う、未だにイクメンという言葉を使ってるのってどこの界隈だろう…案外、広告やマスコミ、報道バラエティが根強かったりするよな…)
(Netflixでこんまりさんのドキュメンタリー見てたら、妻に家事の負担が偏ってることを夫が気にしている家庭、家事を頑張らなくちゃと気負いすぎてる母親なんかが出てきて、自分の物は自分で片付けることを習慣化することで、不均衡が是正されていくさまを見せるつくりに感心した、復元や継承も大事だけど、それ以上に刷新と変化を見せる、アメリカ的だし、大事だなって)

夫にも腹立ってしまう描写がきちんとあって、でもほどよくて見やすくてよかった、学生時代に彼女に勉強を手伝ってもらった彼が、今度は彼女の裁判を手伝うあたり、恩返し、夫婦二人三脚のクライマックスというような形で見たかった気もするけど、特別な夫婦の愛の物語として矮小化しなかったところが良かったと思う。対等にあろうとしてたけど、平等ではない環境の中では、対等になりきれなかった夫婦として描かれていて、主人公はあくまでRBGで、その細やかさがよかったと思う。

母に反発する娘を描いたあたり、
なぜか『エリン・ブロコビッチ』を連想して、描写の進化を感じて好感、あの作品の、母親を癒すためだけに存在する子供の描写に納得がいかなかったんだけど、あれひょっとすると、働く男性主人公の映画なら定番の描写をそのままなぞっただけなのかもしれないという気付きがあった。
あんな感じの母に子供が物分かり良く従うわきゃないと思ったのでリアリティを感じられたし、ちゃんと見応えがあった。ああいう優秀で教育熱心な親、いる、そして子は困るだろうな、と客観的に見れて新鮮さがあったし、父親が間に入るのも嫌味がそんなになくて良かった。

子供たちのためにも正義を、合理的な判断を。描き方が悪いと子供をダシに使うことに繋がりそうだけど、誰もが納得する大義として、大人は子供のために行動するのが当たり前だよね、という前提が共有され通用する社会であることが羨ましい。

最後の演説、わりとヒヤヒヤしたのだけれど。パンフを見ると、映画の中の女性によるスピーチシーンとして恐らく過去最長とのことで、なるほど、そういう意味でも映画史に残る歴史的なシーン、と。

しかし、法廷モノで相手の言葉尻を捉えて上手いこと切り返す、言ってやったぜ、そのキメ台詞、その一言で判決が決まる、あの瞬間が好きなんだけど、
「合衆国憲法にも(アメリカにおいて最大の理念、合言葉である)自由という単語はない」って、え、マジか? そんなことってある?? と思ってWikipedia調べたら、自由の文言、修正第1条のほうにあるのね、予告編の段階で指摘され、脚本家が認めたと…勘違いだったのかな、というか、誰も気付かなかったのか。
合衆国憲法に限定せず、修正条項にもふれたうえで、あの台詞に至ってるから、シーンとしてはやっぱりちょっと意味が通らなくなる? 修正条項が追加されるまでは存在しなかった、ということで納得される部分なのかな。あれ? あの見事な演説の、根幹、脚本のクライマックス、キメ台詞が揺らいじゃった気がして、けっこう残念な気持ちに。確認したい。

映画の、女性による演説シーンといえば、『女神の見えざる手』を思い出した、あれは恐ろしくも痛快で。しかし、語らせてもらえなかった女が語り始める、大事だよな。『ブラッククランズマン』も演説映画で、言葉を奪おうとする白人に対して黒人が、自分で説明できます、と断りを入れる台詞があったけど。『否定と肯定』は主張する女性が裁判中ずっと沈黙を強いられる映画だったけど…やっぱり、満を持して語り始める映画のほうが、物語として、カタルシスがあるよな。

法廷モノが人気の理由はやっぱり言葉の力が強いからで、脚本家も台詞書いてて楽しいんだろうし、俳優も演じたいんだろうなと思う。
ある日本の劇作家の作品について、彼が書くあの長台詞、女優はみんな演じたがるよね、ってな批評文を読んだことがあって、
かっこいい台詞を言いたい女優は多いのに、役がない、台詞がない問題、『デブラ・ウィンガーを探して』で語られてたようなことは、あちこちにあるのだろうな…などと思う。

しかし、上映館少なっ! 邦題『ドリーム』の次は『ビリーブ』かよって。フェミニストの物語は売れないのか、本当に?? これだけ良作の配給が続いているのだから自信を持って、ムーブメントを作っていく気概で展開できないのか。消えゆくレンタルショップに新しいジャンルの棚を作るくらいの仕掛け方をしてみてほしい。女性向けの先行作品を踏まえたタイトル&パッケージングではなく、新しいデザインが必要では…今作のポスター、黄色、新鮮で良いけど。RBGカラーで見たかった気もする。

楽しみすぎて事前にフェリシティ・ジョーンズへのインタビュー記事を読んでしまって、「日本の大学にはまだ女性差別があるの!? 信じられない!」といったコメントを読んでしまって、例の医大の件を引き合いに出した記者の意図は汲みつつ、なんだかしんどい気持ちになってしまった。『ブルックリン』でドーナル・グリーソンが哀切たっぷりに言ってた「きみには僕らが時代遅れに見えてるんだろうね」という台詞を思い出してしまった…

そういえば、今回珍しく、見てからチラシを手に入れたんだけど、推薦コメント出してる著名人、ちょっと物足りない感じがした、なんでだろ、政治家がいなかったからかな。

どうせなら小池都知事からコメントもらって客層を広げて欲しかったと思う。彼女がフェミニズムについてどう考えてるのか、なんとかしてコメント引っ張り出して欲しかった、化けの皮が剥がれるだけにしても、変わるもんがあると思う、あの、ピンクではなく緑色をトレードマークにして、石原陣営からの性差別的なdisを軽やかにいなして圧勝した選挙戦が、日本の女性候補の振る舞いとして近年稀に見る見事さだったのは事実だもの。
三浦瑠璃、保守論客としては珍しい、フェミニストなんだなと思った記憶があるし、発言には首傾げることのほうが多いんだけど、人選には文句ない…でもネームバリューとしてはちょっと弱くない? 保守で名高い女性からもうひとりくらい誰か呼んでほしかった気がする、野田聖子あたりに、女性差別は左右関係ないイシューであるという話をしてほしかった、そんな話を大っぴらにできないあたりに現政権の欺瞞があると浮き彫りにしてほしかった。
そしてリベラルからも、福島瑞穂、蓮舫あたりからコメントもらってほしかった、選挙あるし、政治家の話じゃないから頼めなかったのかな、でも政治家にこそ見てほしいし、語ることで自分の立ち位置を表明してほしかったんだけどな…格好の題材なのにな。こういうの企画するような媒体はないのかな。

あと世代がチョット若めだよね、週刊誌で活躍するライターよりネットで活躍するライター中心って感じ。一昔前なら中村うさぎとか林真理子あたりにコメントもらってた気がする、個人的には田嶋陽子の推薦文を読んでみたかった…フェミニストといえば、テレビで語るたび言葉を遮られる彼女が思い浮かんでしまう文化圏、世代の人間なので。でも、上野千鶴子がいるならもう全部良いかという気もした。

あと漫画家が! いない!なんで! いま日本で最も影響力のある、フェミニズム作品をつくり続けてるのは映画監督よりも小説家よりも女性漫画家たちでしょ! ってなんかもう宣伝にもどかしくなるのやめたい、しんどい…

しかし、このチラシにコメント寄せてる男性陣、信頼したいなという気持ちになった。それから、ピーコさんへの信頼と安心ったら。

パンフレット、上野千鶴子が書いてるなら買おうか、と決めた。上野千鶴子、あんまり好きじゃないし、その発言どうなの、と思ったこともあるんだけど、でもやっぱり、現代日本の女性学の権威による映画評、読んでおきたいと思った。パンフレット、年表があったのもよかったし、服のイラストが可愛かったのもニコニコできた。RBGグッズ発売してほしかったな、五月公開のドキュメンタリー映画も見たい。

しかし、女性差別についてすごくわかりやすく描かれた映画だからみんな見てくれ、って薦めたところで興味持って見てくれるような友達がいないので死にたい。大学で上映会やったり、企業研修で見たらいいよな。人権教育に映画は有効だと高校生のときに身に染みて知って以来、なんか、そういう、教材になりうるか、という目線で見てしまう。なると思う。みんなで見よう、大人になってわかったけど、生涯学習って大事だよな。

さいきん、被害者がちゃんと抵抗しなかったから強制性交等罪不起訴とか、娘に性虐待してた父が無罪とか、ニュース記事を読みながらマジで目眩がしていて、法律が間違っていることもあるな…!と心から納得いって、改めて、この映画のことを思い出したりして。デモとか行かない、行けないし、フラッシュバック起こしそうで怖いので気軽に話題にできない、事件について誰かと会話することはできないけど、署名の機会があったらすると思う。控訴のためにと準備して活動してるひとには敬意を持ちたいと思うし、頭ごなしに馬鹿にしたり冷笑するひとに遭遇したら、私はあれ応援してますよ! と、当然じゃないですか? と言わんばかりに明るく表明したいと思う。大抵、相手は黙る、面と向かって反論できるほど、知識を持って考えて馬鹿にしてるわけじゃないからだと思う。変人扱いはされるけど、もういいよ。そういう、そういう勇気をくれた、ありがとう。

(こういうレビューサイトで何気なく目にした感想文に誰かの人生の一端が載ってるのも面白いんじゃないかと思うし、わくわくするので、なにかない限り今後も気ままに載せていくことにした、匿名性が気楽、でもしんどくなったら消します)
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