その土地に根付き、伝えられてきた謠はそこに生きる人々の血と共に受け継がれ、心に刻まれていく。
ヴィクトルとズーラ、二人の愛だけでなく、彼女が愛した謠もまた、時代の波に引き裂かれていく。生まれ育った土地の民謡から指導者礼賛の歌、ロカビリー、他国の伝統音楽とズーラの心境や置かれた環境に共鳴するように彼女が歌い踊る音楽もまた変節するのが良い。
荒涼としたモノクロの景色に深みのあるズーラの声が響くと、一気に心を持っていかれる。それだけに、映画に描かれていない部分をもっと見せて欲しかった気もする。各シーケンスを等間隔に始まりと終わりだけ見せられているような感じがしてしまったのが少しもったいなかったかな。引き算するにしても、見せ方はもっとあったような。特にズーラは特殊なキャラクターなんだしね。
それに、みんな書き始めと結末は書けるのよ。難しいのは真ん中なんです。古典と評されても良い、素晴らしいカメラワークだが、もう少し二人の瞬間を切り取って欲しかった。ただ、ひたすらに謠が素晴らしいです。