めしいらず

存在のない子供たちのめしいらずのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
3.3
「大人たちに聞いてほしい。世話できないなら生むな」。”僕を生んだ罪”で両親を裁判に訴えた少年が最低だと振り返ったこれまでとはいかな人生だったか。貧困から出生届が出されなかった為に彼は社会的には存在していない。子を生めば親と呼ばれるけれど彼の両親は子らに対して責任を果たしていない。彼の母は増えれば口減らしし、そのくせ新たに孕んだりする。その一方で、窮乏しても赤ん坊を絶対に手放さず家出した少年にも手を差し伸べた心優しいいま一人の母親は無情にも収監されてしまうのだ。彼女の赤ん坊を抱えて彷徨う彼に社会の風は冷たい。限界はやはり訪れる。だが少年は就学こそさせてもらえなかったけれど、過酷な日々の中で知恵を身に付けていた。社会に直接訴えかけその声が運良く拾われた。裁判の行方は注目を集め彼の人生にようやっと一抹の光が差し込んで物語は終わる。だが、たまたま陽のあたった一例だけが運良く救済されただけであって、この裏にある何千何万の同じような事例が同様にフォーカスされることはないのだろう。抜け出せない貧困を生み出し続ける社会構造。少年の無責任にも見える両親にだって言い分はある。貧困者が甘んじて貧しさを受け入れざるを得ないこの社会構造は蟻地獄さながらである。目の前にある事態の収拾が付けばそれでおしまいではないのである。
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