うっちー

存在のない子供たちのうっちーのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.4
レバノンの貧民街、昼は荷物運びや物売り、夜は狭い部屋に大勢の兄弟たちと折れ重なるようにして眠る子どもたち。そして、子どもへの愛がなく、なんらかの金銭的物理的利益の種としかみていない両親(いい歳こいて避妊もせずに、子どもが寝ている側で平気でセックスしている)‥という生き地獄の中、諦めたような悲しい目をして日々を暮らしている少年、ゼイン。歳の近い妹と助け合うように生きていた彼は、元々の素質に加え、ひどい環境から鍛えられたのか、一際賢く、危機察知能力にも長けていた。仕事をもらっているらしい商店主の、妹へのやらしい執着、そして少女が結婚という名の下に売られていくタイミングを知っており、驚くような機転の良さで妹を庇う。しかし、ずる賢い大人たちの目は欺けず、妹は連れ去られてしまう。絶望したゼインは、ひとり家を出るが、という、なんとも絶望感なお話。だが、なんといってもこのゼインの賢さ、逞しさ、優しさ、そして超絶ものの美形ぶりで映画全体を引っ張り、飽きさせない。

町で埃だらけになりながら働くゼインは、スクールバスで通学する子どもたちを横目に見ながら、本当は学校に通いたいと願う、賢く、しっかりとした少年。あの無責任な両親の子とは思えないほど、知性まで感じさせるような子なのだ。また、小さいもの、弱いものをまもろとする優しさも持ち合わせている。
だからこそ、家出先で行き着いたアフリカ系の不法移民の女性の家で彼女の赤ちゃんのお守りをすることになった時の面倒見の良いことといったら、驚く。また、お守りをしなが商売をしようとしたり、道具を工夫して乳母車を作ったりと、悲惨な中にもゼインのヤケクソの機転と工夫がささやかな笑いを呼んだりする。

物語終盤、ある行動に出たことで捕まり、刑務所に入れられた(少年法とかないの⁈)ゼインは、大胆な企てを実行に移す。両親を、自分を生んだ罪で訴えたのだ。なんという発想と行動力。収監された理由もさることながら、ここに至ってはゼインの男気と一人前の人間としての尊厳の確かさに、もうほとんど惚れてしまうくらい、共感してしまった。小さくてまだまだ腕力もないが、紛れもなく核を持った人間なのだ。

悲惨な状況、虐げられる子どもや弱者たちばかり出てくるが、この映画はそれに負ける映画ではない。ゼインを助ける弁護士を演じた女性で監督でもあるナディーン・ラバキー氏は、ゼインやあの移民の女性の未来に淡い光を照らしながら、彼らへの正当なリスペクトを贈っている。その力強さにひたすら心揺さぶられ、また、鼓舞されるような映画だ。ほんとに素晴らしかった。


※蛇足までに。ゼインがちょいちょい万引きをしたり、近所のこどもの持ち物をかっぱらってしまうのは、もちろん悪いこと。なんだけど、あの環境であれば致し方ないこと。また、あの両親をみて育ったにしては、かなりまともな子だと。両親は極悪とは言わないけど、愚かではあるし、最低限の愛情がないのが、ちょっとつらかった。
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