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モンパルナスの灯のほーりーのレビュー・感想・評価

モンパルナスの灯(1958年製作の映画)
4.6
絵の道に生きることの厳しさ・難しさを冷徹なまでに描いた傑作。

ジャック・ベッケル監督、ジェラール・フィリップ主演の伝記映画『モンパルナスの灯』。

同時代に『赤い風車』『炎の人ゴッホ』と画家を題材にした映画は他にもあって、いずれの主人公も生前に全く評価されず寂しく世を去っていくのだが、厳しさとそして哀れさでは本作が断トツだと思う。

才能はあるものの一向に評価されず、自堕落な生活を送っていた画家アメデオ・モジリアーニ(演:ジェラール・フィリップ)。

絵が売れないことを悩み、酒場で酒をあおっては馴染みの女ビクトリアス(演:リリー・パルマー)のところにしけこむ日々を過ごす。

そんな折、モジリアーニは町で美しい女性ジャンヌ(演:アヌーク・エーメ)と出会い、二人は直ぐ様激しい恋に落ちる。

この辺りの展開がちょっと駆け足の感もあるが、確かにアヌーク・エーメの水際立った美貌からすればそれもまた致し方ないのかなと。

ジャンヌと結婚した彼はそれまでの無頼な生き方を変え、彼女との幸せのために絵を描き続けるが、しかし彼の身には既に病魔が忍び寄っていた。

最後のアヌーク・エーメの台詞が胸詰まらせる。

そこへ畳み掛けるように流れる運命的なBGMの素晴らしさ。思わずああと声が洩れた。

あとカメラワークが良いなぁと思った。撮影監督のクリスチャン・マトラを調べてみたら『大いなる幻影』『たそがれの女心』など数々の名作を手掛けた人だった。

ちなみにこの映画には思い出がありまして、高校時代、世界史の授業でモジリアーニの絵が出たときに、先生が「昔、『モンパルナスの灯』という映画があって……」と話した時に、「ジェラール・フィリップですね」って言ったら、「あんたよく知ってるわね」と驚かれた記憶がある。

その時でもその先生が言及していたのが、印象的なラストシーンのこと。

誰が見てもあのリノ・ヴァンチュラの行動には叩きのめされるような衝撃を受けると思う。

あのヴァンチュラの冷たい目……たった数シーンしか出演していないけどしっかりと強烈な印象を残している。

それでも、史実だとあの後、妻のジャンヌはモジリアーニの後を追って投身自殺するのだが本編ではそれを敢えて描かないところにまだ救いがある。

さて本作は急死したマックス・オフュルス監督が企画した作品を、その遺志を継いでベッケル監督が手掛けたのだが、主演のフィリップが本作公開の一年後に、ベッケル自身も二年後に世を去っており、この映画に関わった人が立て続けに亡くなっていることに何か運命的なものを感じる。

■映画 DATA==========================
監督:ジャック・ベッケル
脚本:ジャック・ベッケル
製作:ラルフ・ボーム
音楽:ポール・ミスラキ
撮影:クリスチャン・マトラ
公開:1958年4月4日(仏)/1958年9月30日(日)
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