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オリバー・ストーン オン プーチンのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

4.1
【追記】2022.2.24
プーチンがウクライナ攻撃開始したので、プーチン好きを撤回します。戦争反対。武力攻撃反対。平和的解決すべき。

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オリバー・ストーン監督が2年に渡ってプーチン大統領を取材した4時間のドキュメンタリー。プーチンにオスカーをあげたい。

見ようによってはプロパガンダにもなるけれど、長い歴史をもつ激動の国の元首の視点がアメリカとどのように異なっているかを知ることができて、その理由も、納得することばかりだった。対立を避け、長い目で他国との力の均衡を考えていると言う冷静なプーチンの言葉は優等生的発言ばかりでしたが、時々お茶目になったり、うろたえたり、早口で反論したりも、あれは演技なんだろうなあと思え、アカデミー賞主演男優賞ものです。

オリバー・ストーン監督の狙いは2つ。

一つは世界の均衡について。

アメリカが被害妄想的、陰謀論的にロシアを常時仮想敵と見なし、選挙の道具とし、防衛費が膨らみ、世界の均衡を軍拡合戦、サイバー攻撃合戦で刺激していることへのアンチテーゼをプーチンに語らせている。

プーチン大統領と一緒に観たキューブリックの『博士の異常な愛情』と同じく、均衡を危うくしているのは被害妄想的なアメリカサイドにあるんじゃないかと。

どこか(アメリカ)が拡大を止めなければとどまることを知らない新たなフェーズにに入っていることへの警鐘。

もう一つは、

長い年月、大国の最高権力者として君臨しているプーチン大統領の個人的資質を露にすること。この人物はロシアのみならず、世界にとって今後も有益か否か。

前者に関する質問に対してプーチンはどんな内容でもシナリオがあるかのように冷静沈着に答え、ロシアサイドの安定した世界観を述べていた。

しかし、後者の権力者として長居することは独裁政治や腐敗に繋がるのではないかとの問いには、不快感を露にした。図星というよりも、おそらく論理的に矛盾を抱えることを好まない氏が、後継者問題や組織の問題を解決できずにいる内政に触れられたことへの苛立ちだと感じた。

ロシア人のプーチンの描く世界観は柔らかく言えば父性的で家族的、強く言えば家父長的だ。対立を好まないのは、対等を好まないことでもあり、相手を未成熟とみなし、試しては総合力で勝ることを暗に示し、自らは勝負に向かわず、無駄を省き、相手の勇み逸る気を利用する。機が熟すのを長い目でみる。まさに柔道の戦法なんだろうな。

幾たびか「ロシアは大人だから」と口にしていた。

ドキュメンタリーはもちろん切り取られ編集されたものだから意図はあり、プーチンの言い分はもっともに聞こえる。

私が言い訳するのもおかしな話だが、アメリカの言い分はまた全く異なる歴史と移民によって成立した背景があり、それが「世界の警察」になり内政干渉する理由だと思っている。

移民は愛する母国に様々な理由で住めなくなったからアメリカにやって来た。母国よりもアメリカがより幸せになれると考えたから。政治的、経済的理由がいちばんだろう。移民してきたアメリカの国民の幸せは母国もまた平和な国であってほしいと願うことであり、様々な国から集まった移民の国の敵は、移民を生み出す混乱した政治、民主化の進まない国であることは容易に想像できる。ゆえに、正義感の原動力で対立の構図を作り出す。一つの合衆国として内に求心するまとまりと、外敵を生み出すことはセットで、アメリカの存在する所以である。

そんな背景のアメリカから永続的に外敵と捉えられているロシアの大統領プーチンのぼやき集でもあった。賢いロシアは外敵にされても実際に攻撃せず均衡を保っているように見えるが、振り返ると、例えばそれ以外の国や組織はどうだっただろう。

長々と書いてしまいましたが、ただプーチンにめちゃめちゃ興味があったからです。というのは、何年か前にプーチンを私のジョークで(たぶん日本語で)大笑いさせた夢をみたことがあって、それからはプーチンが気になり、笑っている顔が見たい、けっこう笑い上戸だと思う、と今日に至りました。笑顔やほくそ笑む顔、苦笑い、お世辞笑い、等々が見られたので満足しました。爆笑はなかったけど。
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