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猫の恩返しのギズモXのレビュー・感想・評価

猫の恩返し(2002年製作の映画)
4.8
ジブリで一番好きな作品。
明るいストーリーに可愛いらしいキャラクター、そして良い意味でジブリらしくない現代的な絵柄。
本作が公開されたのは今から20年以上前の2002年だが、この現代らしさは今でも十分に通用すると思う。

しかし、僕はつい最近までこの映画の良さが分からなかった。
今まで環境問題や戦争の悲惨さなど、現代社会に痛烈なメッセージを訴えかけてきた他のジブリ作品と比べて、本作はストーリーに深みがない。
まるで子供が読む絵本のようだ。
なぜ僕はこの映画が好きなんだろう?

だが、今絶賛公開中のジブリ最新作『君たちはどう生きるか』を見た時、この映画の良さがなんとなく理解できたので、今回は本作をレビューさせていただきます。

『君たちはどう生きるか』は今までのジブリ作品の詰め合わせセットみたいな作品だったが、僕が一番似ているなと思ったのが、この『猫の恩返し』だった。
"心に悩みを抱えた主人公が、意思を持った動物達が暮らす死の世界に迷い込み、大切な何かを得て現代社会に帰還する"という点だ。
(実は本作に登場する猫の国は、現実世界で死んだ猫がいく場所という裏設定がある)
ところが、この『猫の恩返し』は『君たちはどう生きるか』と違い、あるものが強く描かれている。
それは"今を生きることの喜び"だ。

改めて見てみると、この映画に登場する猫の事務所などの外の世界の住民達は、猫の国の住民になりかけている主人公のハルに対して、今の時間を生きられるように、自分を見失わないようにと強くフォローしているのである。
これは『君たちはどう生きるか』とは対照的だ。
中でもハルを現実世界へ無事に帰らせようとするバロンの姿は、一人一人について守り導くとされる守護天使の姿と重なってくる。
そしてハルが助けた二匹の猫。
"自分がしたことはただのお節介だと、あなたはそう思っているのかもしれないけれど、あなたがいてくれたから今のわたしたちがあるのですよ"、と優しく感謝を捧げながら元の世界にへと送り出して行く。
この構図は、僕の大好きなクリスマス映画『素晴らしき哉、人生!』によく似ている。
見終わった後に感じるこの心地よさ。
今を前向きに生きようとする明るさそのものが、本作を好きになった理由なのだろう。

僕たちはもう少し明るく生きてもいいはず。
成長というものは自分の弱さを克服することだけじゃない。
ありのままの自分を受け入れ、好きになることも大切だ。

一番好きな場面は、宴会中にしくじった猫が窓から放り投げだされるシーン。
ああいうノリが堪らない。

【余談】
※ちょっとネタバレ注意

『君たちはどう生きるか』は、悪い意味で酷いショックを受けた作品だった。
世界観は良かったけど、舞台のほとんどが主人公の家の中で、身内だけで話が進んでいく世界の狭さと暗さに気持ち悪さを感じる。
ちょっと成長した子供が自分の家でおもちゃを広げて遊んでいるような感じ。
クライマックスでの主人公の決断は責任から逃げているようにしか見えてこなかった。
本作のバロンようなかっこよさがあれば、また違った感想になったかもしれない。

【追記】
作品は素晴らしいけど、監督があんな人だとは思わなかった。
凄くショック。
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