KnightsofOdessa

アイカのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

アイカ(2018年製作の映画)
4.0
[嗚呼アイカ…私の分まで生きてくれ…!] 80点

こりゃあダメだよ、大好きだわ。「トルパン」の主演女優サマル・イェスリャーモワを主演に迎えたドヴォルツェヴォイの監督二作目。今年のカンヌ映画祭のコンペに出品され、見事女優賞を受賞した。カンヌ映画祭自体が移民系の映画に弱い傾向があるので、この受賞は選択肢のない中の選択とも取れるかもしれないが、実際イェスリャーモワの演技は素晴らしく、監督も絶賛していた。途中からイェスリャーモワが疲れ果てた谷村美月にしか見えなくなった。あながち間違ってはいないと思う。ちなみに、撮影監督も「トルパン」と同じ人を使っているらしいので、これ以上ないくらい同作が見たくなっている次第である。

キルギス人のアイカが産後一日で産院から脱走するシーンから始まる本作品は、終始アイカの背中に付いて回り、独特の色をした目で人々を睨みつける様子を記録する。歴史的な大雪は想定外のことだったらしいが、文字通り血塗れになりながら女の仕事(掃除や鶏肉の下処理)から男の仕事(雪掻き)に手を出さざるを得ない様子にシフトしていくのはやっぱり対比として上手い。アイカが終始青いジャケットを着ているのは赤いジャケットを着ていたロゼッタへの対抗意識なのか。焦燥し切った顔で出血を押さえ込もうとする姿は涙なしには語れないが、ここでふと気が付く。妊娠したからいかんのだろ、と。堕胎する金すらなかったのか、出産経験がないから産み落とした後に逃げ出せばいいと単純に考えたのだろうか。

という問いが愚問であったことをアイカは漸く白状する。"レイプされた"と。そうか…そこまで考えが及ばなかった、申し訳ない。どこまでも望まなかった子供を売り渡すことにしたアイカだったが、彼女が唯一この世に作り出した者であり、死んでも生きていても誰も見向きもしないような彼女の人生をこの世に刻み込める唯一の者を前に彼女は何も出来なくなり、最後の抵抗として母乳を与える。ここまで母乳を絞り出していた描写はあれど、このシーンで初めてアイカはカメラの前に胸を曝け出す。母としての覚悟、しかと受け取った。

確かに、手持ちカメラは策に溺れている感じもするし、こういう内容の作品なんか腐るほどあるが、不思議と私の心には響いた。気が付けばアイカを応援するまでになっていた。売り渡すはずの赤ん坊を抱えて籠城するアイカがこれからどうなるかは想像に難くない。アイカ…頼む、生き延びてくれ…
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