凛

夜明けの凛のネタバレレビュー・内容・結末

夜明け(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

完成披露試写会
東京フィルメックスにて鑑賞。
是枝裕和監督、西川美和監督の監督助手を務めた広瀬奈々子監督のデビュー作。

過去に忘れられない罪を犯した青年(柳楽優弥)が倒れているところを拾った男哲郎(小林薫)哲郎は8年前に妻と息子を亡くしていた。

青年の名前はシンイチ、亡くした息子と偶然にも一緒の名前で、擬似親子のような生活が始まり温かく迎えられる。
木工所の仕事を教え仲間(YOUNG DAIS 、鈴木常吉)も出来てきたが、
拾われた時の所持品で、哲郎はシンイチが偽名だと知っていた。
それでも哲郎は息子の代わりにいて欲しいと願う。
再婚が決まっていても亡き息子の物を残してあったほど未練があった哲郎。
息子に継いで欲しかった木工所の仕事も一緒に与えていく。

シンイチは自己肯定感が低く、哲郎が用意した木工所の跡継ぎ、息子としての役割を与えられてもどうしても受け入れられない。
だんだん哲郎がシンイチに求めるものが多くなっていった。
結婚パーティーの場でみんなの前で紹介された時、堰を切ったようように本当の名前を口走り逃げていく。

就活もうまく行かずバイトもやる気がなかったシンイチは死んでいた。木工所が生きる場所になるかもしれないと思ったが、背負いきれずまた違う場所を探していく。

シンイチは受け身の演技で台詞も多くなく柳楽優弥が繊細に感情を表現している。
嫌がるシーンが多く、秘めた気持ちを小刻みに出していき最後に爆発する。とても難しいが気持ちが伝わってくる。
周りから揺さぶられれば揺さぶられるほど良い表情になっていく。複雑な役だが、最近では珍しく心の内面を丁寧に描くので、真骨頂という感じ。
子供と遊ぶシーンは本当に自然で違和感が無い。さすが実生活でも父親なだけはある。

小林薫が庇護してあげようという優位から捨てられるという立場の逆転。徐々に執着心が強くなる。そして2度息子を失うという絶望感で観る方も哀しい。
やはり相手との何気ないやり取りがとても上手い。時折女々しく縋るような、少し老い感じさせる目線、表情。。哲郎が小林薫で良かった。
元々、広瀬監督がファンだったらしい。
木工所のYOUNG DAIS 、鈴木常吉が良いチームワークで、本当に働いているメンバーのような空気感を出していた。
2人はミュージシャンなのて耳がよく、役に寄せていくのが上手い。

最愛の妻と息子を亡くす、知り合いを自分の過失で亡くす、どちらも簡単には乗り越えられない心の傷。
この出会いはむしろ残酷だったのか。少なくとも哲郎にはかえって辛さを味わう羽目になった。
シンイチの自立への第一歩だが、哲郎はあの後立ち直るのに時間が掛かりそう。
他の人を自分の思うようにすることは出来ないと分かっていても、どこか期待してしまうのが。人の弱さであり甘えである。

ラストシーンは監督が拘った、海を見つめて終わりにしたくない。
海はすべてを包み込むけれど、踏み切りは一歩立ち止まってそこから歩き出す。生きようという意思が感じられる。
髪色を真一に似せようと変えるが、本当のことを話してここから出て行こうという決意が、髪を染めるシーンの長さに込められている。
女性監督だからか、柳楽優弥のセクシーさが出ている。

過去の回想シーンが入らないので、哲郎がタバコを吸うのを気にするとか、居酒屋の店主がバイトを怒るのに反応する、パチンコ屋に入れないシンイチが最初はよく分からなかった。
後になって繋がる部分が多くある。脚本に練りこんでいて見せ方が上手い。

是枝裕和監督と同じように家族を描いているが、師匠より辛口で容赦ない。
東京フィルメックス スペシャルメンション賞受賞。
凛