岡田拓朗

青の帰り道の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

青の帰り道(2018年製作の映画)
4.2
青の帰り道

もしも僕が天才だったら。

ずっと鑑賞したいと思っていて、大阪で再上映されることを知り、満を持してその初日である監督の舞台挨拶付きで鑑賞。(だいぶ前に観ました)

群馬県前橋市と東京のどちらもを舞台にした7人の若者の群像劇。

たまらなくよかった。
自分にとって傑作なのは間違いないが、そんな一言で終わらせたくない。

三者三様ならぬ、七者七様の若者たちが青々しくて、痛々しくて、それでも自分を創ろうと、何者かになろうと、色んなものを重ねて、色んなものに向き合って、虚構を作って、現実逃避をして、でも色んな人や自分に向き合って、もがきながらも生きていく。
理想と現実に打ちひしがれながら、その重圧と救いのなさに負けた者もいる。
今作でいう丸くなる者もいる。

大人って何なんだろうかと、自分はどう生きたいんだろうかと、それって実現できるんだろうかと、色々なことを思い巡らされる。
何かを成し遂げようと動くから何かが起こるし、何も起こせなくても後退していく。

もしも僕が天才だったら、自分が作った歌を声高だかに自信を持って歌い上げて、たくさんの人に影響を与えられ、熱狂させることができ、自らの生きる意味を感じられるのに。
もしも僕が天才だったら、好きな人のそばで好きな人の歌声を聴きながら、人生を共に歩むことができたのに。
もしも僕が天才だったら、大きいことを成し遂げて、何にも悩まずに人生を謳歌することができたのに。
もしも僕が天才だったら、したくないことをせずに日々を生きていけるのに。
もしも僕が天才だったら、好きなことを仕事にして、それでも地に足をつけて強く生きていけるのに。
もしも僕が天才だったら、やりたいことだけをやって生きていけるのに。
もしも僕が天才だったら、こんなにも思い悩みながら生きなくてもよいのに。

こんな声がそれぞれから常に聞こえてきそうで、同じように誰もが叶いもしないたらればを考えて、そんなたらればを夢見て日々を生きたことがあるのではないだろうか、もしくは今もそう思いながら現実と折り合いをつけながら生きている人がいるのではないだろうか。
天才というのはいわばそれぞれの偶像であり、理想。
その対象と思われる人の全てをわからないのに、理想な部分だけ切り取って、誰かを、何かを対象にたらればを思う。
あくまでイメージでしかない自分だけの理想。
そんな人にとっては物凄く刺さってくるものがある。

でも、
僕がもしも天才だったら、嫌な自分と向き合うこともないだろう。
僕がもしも天才だったら、こんなにも人と向き合うことはないだろう。
僕がもしも天才だったら、現実に起こっている色んなことを知らずに生きていくだろう。
僕がもしも天才だったら、こんなに人に寄り添った歌を歌うことはできなかっただろう。
僕がもしも天才だったら、こんなに生きたいと心の底から願わなかっただろう。
僕がもしも天才だったら、こんなに強く人と繋がることはできなかっただろう。
僕がもしも天才だったら、こんなに喜怒哀楽を感じながら生きることはできなかっただろう。

もしも◯◯だったらと、たらればを考えることに対しての現実の自分に、後押しと肯定、救いを、たらればの切り口で差し伸べてくれる。
そんな作品である。

現実に起こることを痛々しく突き刺してくるのに、それらを経験したからこそできあがる全員の人間模様に、ありったけの肯定を与えてくれる。

誰に対しても感情移入ができる。誰に対しても心揺さぶられるものがある。
誰もがみんな物語をしっかりと持っていて、それはその人でしか作ることのできない、いわば自分だけの映画である。

スクリーンに映し出されているものに感化させられたとしたら、それはまさしく自分に感化しているということ。
それだけで救われる。そう思ってもいいんだと思わせてくれる。

やりたいことが必ずしも必要とされていることや求められていること、できること、正解のあることであるとは限らない。
大多数と方向性がズレていることもある。
生きるために生きざるを得ないことも、働かざるを得ないこともある。

それでもそこでの経験や思い悩んだこと、考えたこと全てが今の自分に繋がっている。
それは自分の描いている天才(偶像)であったら、創ることができなかった自分。
そのかけがえのなさを思い起こしてくれる。

そこにamazarashiの「たられば」が深く入ってくる。
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無い物ねだりの 尽きない戯言
もしも僕が生まれ変われるなら もう一度だけ僕をやってみる
失敗も後悔もしないように でもそれは果たして僕なんだろうか
※一部抜粋
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こんなに映画とリンクした素晴らしすぎる曲が今まであっただろうか。

全てがよくて、今自分に間違いなく必要な作品でした。
今このタイミングで鑑賞して本当によかったです。

P.S.
キャストもやばいです。本当によすぎた。
生々しくて、痛々しくて、物凄くリアル。
誰もに甲乙をつけがたく、本当に全員がそれぞれによくて、凄かった!
こういう作品に興味がなかったとしてもぜひ観て欲しいです。
岡田拓朗

岡田拓朗