このレビューはネタバレを含みます
電話番ワンシチュエーション。
脚本が素晴らしくてどんどん引き込まれた。
アスガーもイーベンも心を失っている時に、深い罪の意識を感じることなく、人を殺めてしまったという点では同類だったと言えますよね。
しかし、イーベンが自らの罪を全く認識できていなかったのに対し、アスガーは罪を心の中に隠し、感じないふりをしていたと言った方が正しいように思います。
オペレーターの仕事は腰掛けだという気持ちがあるから、横柄さが滲み出ていたし、反対に現場の上司とは笑顔で心を許した会話をする。
そんな調子でサクッと消化して、かつて罪を犯した現場に戻ろうとしていたのだから、いかに罪に対する意識が希薄だったのかということが分かります。
声だけのやりとりの中、最終的にイーベンは自らの罪を悟り、陸橋に立ちます。
この時に彼女が全身全霊で罪を受け止めていたことは想像に難くありません。
この振る舞いは、偽証で罪を逃れようとしていたアスガーとは真逆のアプローチであり、こんなにも子を想っている母親が罪を抱え、この世から消え去ろうとする一方で、自らはのうのうと現場復帰を果たそうとしている。
イーベンの命を救おうとするぐらいには良心も持ち合わせているアスガーは、声だけで想像する彼女の姿に、隠していたはずの罪の意識が表面化したのではないかな。
会話の中で登場する「蛇」は悪いモノの象徴のような意味合いですかね。
アスガーは19歳の心の中に蛇を見たからこそ、それを正当な理由だと意味付けして手をかけたはず。自らの家庭事情などのフラストレーションが原因だったにも関わらずです。
そんな彼はイーベンとのやりとりを通して、自分こそが「蛇」だと、ようやく蓋をしていたものと向き合う決意ができたのでしょうね。
アスガーにとっての緊急指令室とは彼の心そのもので、彼の存在は心の中に隠していた「罪」だったのかもしれません。
そうだとすれば、ラストシーンで緊急指令室を出たアスガーは、罪の意識を表に出してしっかり向き合い始めたことになる。
アスガーもイーベンもこれからは償いの人生が待っているわけですが、罪を償ったものにこそセカンドチャンスは許される物だと思います。