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THE GUILTY/ギルティのdm10foreverのネタバレレビュー・内容・結末

THE GUILTY/ギルティ(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【交代】

不思議な映画・・・。

いい意味でタイトルに引っ張られたおかげで、序盤とラストで意味がガラリと変わる見事なタイトル。

先日観た「Saerch」のようなテイストもありつつ、緊急ダイヤルのオペレーションルームという閉ざされた空間狭い空間で繰り広げられる緊迫のやりとりは、どこか「12人の怒れる男」のように観るものの感性を徹底的に試すようなテイストも感じる。

主人公のアスガーは緊急ダイヤルのオペレーターとして勤務している。
しかし、序盤から緊急電話に対する対応はどことなく横柄というか、気持ちが入っていない。
電話を掛けてくる主もイマイチ見当違いだったり訳アリだったりと、悪戯電話とは言わないまでも「またか」とどこかであしらっているような感も受けた。
たが彼は元々警察官であり、いまは理由あって緊急ダイヤルで勤務せざるを得ない状況であることが序盤にわかる。
なるほど、どこかで「これは俺がすべき仕事ではない」と思いながらやってるのか・・そう思うと、彼のそっけない対応にも納得がいく。

そんな時、イーベンという謎の女性から一本の電話が入る。
「・・・ママよ・・・・もうすぐ帰るからね・・・・。」
(間違い電話か?)
しかしどうも様子がおかしい。
「今誰か隣にいるのか?」
「・・・・」
「隣の人間は今電話している相手が誰かわかってるのか?」
「・・・いいえ」
「・・・誘拐されたのか?」
「・・・そう」
一気に状況が一変する。

この映画は「オペレーションルームの中の出来事」だけが全てであり、その外で起きていることは全て「電話の向こうの声」からしか知ることが出来ない。
そしてそれが「真実」なのか「嘘」なのかを知る術はない。
電話の向こうの声から全てを聞き取るしかないのだ。
一刻も早くイーベンの命を助けなければ。
しかし余りにも情報が少なすぎる。何とかしてもっと情報を得られないだろうか?

この事件に対して「警察官」としての本能が顔を出してしまった辺りから、彼の行動は単なるオペレーターとしての業務を逸脱していく。

彼が何故オペレータールームで勤務しなければならなかったのか・・・。
それは直前に彼が起こしてしまった事件がきっかけだった。
彼はその事件に関する裁判を控える立場だったのだ。
いわば「謹慎」にも近い状況。
しかし、相棒のラシードが明日の裁判で「打合せ通りに」証言さえしてくれれば、またすぐにでも警察に復帰出来る・・・はずだった。

刻々と変わる状況は、徐々に彼を追い詰めていく。

実際に事件の当事者である自分・・・しかし「形式的な裁判」さえすれば警察に復職できるという甘い考え。
かたや電話の向こうで起きている「今、正に命の危機」という状況に、彼の警察官としての忘れていた使命感が目覚める・・・いや、残念ながらそうじゃなかった気がする。

彼は追い詰められたのだ。
それまでキチンと向き合わなかった全てのものから。
電話の向こうの出来事は嘘かホントかもわからない。
だからひょっとしたら「みんなでアスガーを騙してやろうぜ」だってあるかもしれない。
でも彼はこのケースに乗っかったのだ。後先を一切考えずに。

最後の最後、彼は自分が犯してしまった罪を告白する。
イーベンに対して、そしてそれまで見下していたオペレーションルームのスタッフに対して、そして向き合ってこなかった自分に対して。

だからあれは一種の「告解」なんだとも思えた。

「パトリシア(奥さん)によろしくな」
「いや、いないよ」
「わかってるさ、そんなとこ(オペレーションルーム)にいるわけないだろ。家に帰ったらよろしく伝えてくれ」
「・・・ああ」
しかし、パトリシアは既に彼のもとを去っていた。
しかし、そのことを上司にも相棒のラシードにすら伝えていなかったのだ。
左手には未だに結婚指輪をつけたままのアスガー。
彼は近しい人に対してもそんな大事なことすら言えなかったのだ。
ラストシーンで誰かに電話をかけるアスガー・・・。

そうだよね、かける相手は一人しかいないよね。
思わず呟いてしまった。
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