カルダモン

CLIMAX クライマックスのカルダモンのレビュー・感想・評価

CLIMAX クライマックス(2018年製作の映画)
5.0
躊躇なしに★5.0で。逃げ場のない冒頭のダンスフロアから既にクライマックス、と思いきやギャスパー・ノエはその手を緩めることなく、長回しのワンカットによって退路を断ち続け、BPMをじわじわと上げながら、めくるめく地獄へと突き落としてくれた。未体験ゾーンへの侵入こそ映画を観にいく理由である私にとって、その点では文句ナシです。

地獄を文字通り体現するのは役者経験ゼロの生身のダンサー22人。彼等の肉体がそのまま作品の熱量と直結して、グイグイと高みへと引きずりあげる。驚くべきことに彼等の演技はほぼ即興演技で行われており、大まかな設定以外はその場の会話で生まれていったものだとか。

〈LSD〉と〈ダンスミュージック〉が核となり、ワンカットの長回しは演劇的な不可逆性を帯びながら、取り返しのつかない最悪の方向へと吸い込まれていく。延々と繰り返されるループ地獄に鼓動が早まり、息は切れて、はやく建物から出してくれ!この音楽を今すぐ止めろ!と何度思ったか知れない。この出口のない感覚はアロノフスキーの『マザー!』に近いものを感じたり、あるいは後半の赤い地獄描写などはリメイク版『サスペリア』が頭に浮かんだ。

人を選ぶような奇抜な演出の数々も個人的には大好物で、エンドロールから始まるオープニング、真上から見下ろすアングル、酩酊する中でカメラも字幕も逆さまにひっくり返すギミックなどなど楽しいの極みなのだけど、最もブチ上がったのは中盤で唐突に挟み込まれるキャストとスタッフのクレジット。オシャレなフォントとフレンチハウスの音!これからが地獄の本番と言わんばかりの見事な演出でした。

悪夢的な赤と緑のライティング、ダンサー達の強烈な個性とファッション、徐々に充満していく負のグルーヴ。何もかもがドラッギーでヤバかった。壊れた安全弁で内なる悪魔が剥き出しになる過程。止める者がひとりもいない状況の怖さ。悪夢のような一夜が明けた時の虚無的な静寂。

音と密閉空間が非常に大事な映画なので、間違いなく劇場鑑賞がオススメ。