カルダモン

12日の殺人のカルダモンのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.6
ある夜、大学生のクララはパーティからの帰宅中に何者かに襲われる。ガソリンをかけられ火を放たれ翌朝に焼死体で発見された。
捜査を任されたのは昇進から間もない新米刑事ヨアンとベテラン刑事マルソー。彼らがクララの交友関係を洗い出していく過程で、疑わしき男たちが次々と表面化していく。実際の未解決事件を元にした映画なので、当然ながら映画も事件は未解決のまま終わる。

率直な感想として、どいつもこいつもそんなんだから未解決事件が発生するし解決もしないんだと言いたくなるのだが、まさにそれこそがこの映画の芯の部分なのだろうと思った。

つまりは疑いをかけられる男たちも、捜査をする警察も、誰も彼もが自分本位であるということが事件を解決から遠ざけている。強硬的で雑な捜査と尋問、足の引っ張り合い、見るからに素行の悪そうな輩が匂わせる余罪の有無、次々と明らかになる被害者女性のユルユルな男性交友網などなど。ついつい日頃の行い、というようなことが如何に大事かを考える。

また、冒頭のわずかなシーンしか登場しないクララに対し〈至って普通の女の子〉という漠然とした印象を持ち、彼女は誰かの恨みを買うような人には見えなかったという先入観が、みるみる色を変えていくのも自分の心が映されているようでなんとも。

映画を見ていて少々信じられないなと思うシーンがいくつかあったのだが、中でも鑑識が被害者のスマホの着信を受けた場面は、え?と思った。電話をかけてきたのは友人女性だったのだが、その子に対して鑑識はあなたの名前は?とか、住所は?とか個人情報を次々と聞き出す。相手の女性は友人の電話に出た知らない人間に対して当然怪しむだろうと思うのだが素直に個人情報をなんの疑いもなく伝えてしまう。この警戒心のなさというのは国柄なのだろうか。

亡霊を恐れないとかなんとか、気取ったこと言って締め括ってたけど、いやいや。
3年経っても全然成長してないどころか、結局あの老警部の二の舞になってることに驚き。未解決事件ていうのは二度殺されるようなものなのかも知れない。

ドミニク・モル、やはりひと癖ある動物の見せ方。確実に監督が意図しているだろうと思うのはノラ猫が真相を目撃しているだろうということ。劇中では様々なシーンでさりげなく猫が映り込むのだが、重要参考人であったり警察が捜査を進める上で知りたい情報に一番近いところにいたのが猫ではなかったか。思えば前作『悪なき殺人』も原題は『Only the animals(=動物だけが知っている)』だった。