カルダモン

ZOOのカルダモンのレビュー・感想・評価

ZOO(1985年製作の映画)
4.4
ピーター・グリーナウェイ・レトロスペクティヴにて。

その昔母がVHSで観ていたのを横目に、断片的ながら忘れ難い印象を刻み込んでいた作品(主に早回しの腐敗シーン)、念願の劇場鑑賞。
原題『A Zed & Two Noughts(=ゼットと二つのゼロ)』とあるように、劇中にはオリバーとオズワルドという「O」で始まる双子の兄弟と、終わり(Z)を象徴するような女性アルバが登場する。女性を中心に二人の男が左右に配され、シンメトリーなシーンが随所に描かれる。

動物園の動物学者である双子の兄弟。ある時二人の妻は交通事故を起こし同時に命を失う。車の運転手であった女性のアルバは一命を取り留めたものの、片足を失う重傷を負ってしまう。それからというもの、双子の兄弟は動物の死骸が腐敗していく様子をフィルムに記録するようになり、片足のアルバに心を惹かれていく。「シンメトリーじゃないから」という理由でもう片方の足を切り落とすアルバの精神、美の追求が極まる。

醜いものに美しさを感じたり、美しいものの中に醜さが見えたり、相反するからこそ引き立てあったり、互いを内包しながら混沌としている様子が好き。〈醜〉もまた〈美〉の一部であるという感覚に出会える。表裏一体の関係どころかもはや同じものなのではないか、とさえ思える。有機物が腐っていく。分解し崩壊していく様はなんとも魅力的で目が離せなかった。また特徴的なのはマイケル・ナイマンによる音楽で、単調で緩急の激しいメロディがなんとも退屈。時たま訪れる眠気は確実にこの音楽によるものだった。

物語はあってないようなもので、まずは図像的、象徴学的な絵柄に酔い痴れるかどうか。フェティッシュを貫くことでしか生まれないイメージ群は貴重だし、それを世に放ってくれる映画制作の土壌も素晴らしい。グリーナウェイの映画を見ると、今の映画はちゃんとし過ぎているんだなと思えてくる。もちろんグリーナウェイがちゃんとしてない訳じゃなくて、近年の映画は上手すぎる故に隙がなくて窮屈というか、いろんな角度から意味や論理を組み立てて立派に仕上げてくるので時々疲れる。もっと内面丸出しみたいなものが欲しいなって。それはそれで疲れるか。