カルダモン

デューン/スーパープレミアム[砂の惑星・特別篇]のカルダモンのレビュー・感想・評価

4.5
私にとってファーストコンタクトであるリンチ版こそがデューン・砂の惑星なので思い入れもひとしお。でも、長く慣れ親しんでいる劇場公開版というのは擁護しきれないほど説明不足が甚だしいので、私は主にビジュアル面やキャラの濃さを褒めちぎっていた。説明不足も味だ!と。説明なんてものは湧き立つ想像力の前には無力だ!と盲信していた。しかしいかんともしがたい事実として、やっぱり単純に伝わりづらいのはつらい。
その点、スーパープレミアム版(以下TV長尺版)ではカットされてしまった重要シーンが追加されているので、物語の難解さはある程度軽減されている。また固有名詞や独自の用語がある程度頭に入っていれば相関図もわりとすんなり入ってくる。ただ、TV長尺版には不満点も大いに残る。私的には冒頭部のシーン(皇帝の娘イルランによる回顧録)がバッサリと無くなっている点が許せない。TV長尺版のオープニングでは宇宙ギルドやベネ・ゲセリット、ハンコンネン家やアトレイデス家の歴史をイラストを使って振り返るというシーンに置き換わっているのだが、この変更がどういった流れで追加されたものなのか興味深い。オープニングこそ世界観(説明という意味ではなく)を伝える重要な役割があるはずなのに、明らかに全体像から浮いて見える。TV長尺版が制作されるにあたりデヴィッド・リンチは監督名義から外れており、架空の監督アラン・スミシーになっているので、誰の手によるものなのか真相は藪の中。

リンチが描いたDUNEの魅力は世界観が突出しているということに尽きる。38歳長編三本目ながら臆せずに趣味を貫き通す姿勢もすごい。登場人物の顔ぶれも独特な世界の構築に一役も二役も買っていて見ていて飽きない。2時間で描き切れない内容であっても、ビジュアルの力によって消えない記憶として刻み込んでくれた。

結局のところ劇場公開版についてはデヴィッド・リンチ本人にファイナルカット権が与えられず、本来ならば4時間の作品だったところを不本意に短縮された未完成の作品だったのだと思う。リンチが劇場公開版から自身のクレジットを消したかったというのもこの作品自体が失敗だということではなく、映画会社側による意に沿わない編集の問題だったそうです。
その後、リンチ自身が自分の意図した通りの長尺版を復活させる企画が立ち上がったらしいのですが、残念ながら頓挫したとのこと。今からでも遅くない(いやだいぶ遅いが)失われたフィルムを発掘し完全版を復活させてくれやしないか。リンチの長尺版は荒編集ではあるものの公開当時にブラジルの一部で上映されたという話があり、実在はしていたらしいので、どこかの倉庫に眠っているに違いない。


余談
某 tubeでDUNE関連の動画を漁っていたところ非公式のファンエディット版なるものを発見。日本語字幕付きだったのでモノは試しと興味半分で見始めたところ、これがなかなか素晴らしい出来栄えで驚きました。作成者の解説によれば劇場公開版とTV長尺版をベースに未公開映像素材と第7稿脚本や本人の証言などから分析して再構成したというシロモノで、かなり理想形に近いのではと想像。たぶん制作者本人も完全版を観たいあまりに作ったのだろう。お気持ちお察しします。

劇場公開版、TV長尺版とあわせてヴィルヌーヴ版と比較するのは楽しいと思う。夏にはリンチ版が4Kで劇場公開されることが決定したのでとても楽しみ。
改めて思ったことはやっぱりIMAXフォーマットよりも横長のシネマスコープサイズが好きだってこと。映画っぽいから。

どうでもいいけどフィルマークスのジャンル分け的には[ホラー]なんですかね?たしかにリンチの美しくて不気味で不快で悪夢的な描写は実質ホラーといえるかも。