ひでやん

ヘイト・ユー・ギブのひでやんのレビュー・感想・評価

ヘイト・ユー・ギブ(2018年製作の映画)
4.2
憎しみを未来へ繋ぐか断ち切るか。

無抵抗の黒人の青年が白人警官に撃たれて死亡というニュースを見る度に「ひでえ話だな、肌の色が違っても同じ人間じゃないか」と思っていたが、人種差別も銃社会も馴染みが薄い日本にいる自分にとってそれは、遠い異国の出来事だった。

人種差別という理不尽な問題を日本で置き換えるならイジメが少し近い。イジメっ子はいじめられる側の痛みを知らず、自分がいじめられて初めて痛みを知る。黒人の「ヘイト」は、黒人として生まれ育った黒人にしか分からないだろう。

黒人居住地区で生まれ育ち、白人の多い私立高校へ通う少女スター。幼馴染みのカリルが目の前で警官に撃たれ、警官の行動を正当化しようとする警察に立ち向かう今作は、ジャケ写のイメージと違ってどこまでも重い。地元と学校で別の人間になり、波風立てぬように白人社会と共存するスター。そんな主人公を演じるアマンドラ・ステンバーグが魅力的で、とにかく彼女の演技が素晴らしかった。

銃を持ったように見えた「黒人だから」撃たれた青年。それが白人なら「手を挙げろ」という理不尽さがやるせない。地域ごとの格差が拡大し、「郵便番号で人生が決まる」といわれる米国。黒人居住地区でドラッグが蔓延するのは貧しいからで、差別が格差や犯罪を生み出している。

黒人だから低所得、低所得だからドラッグを売買、売人が多いから黒人は犯罪のイメージを持たれる悪循環。父親が子供たちに教える黒人の誇り、家族の絆が力強い。父親は根深い人種差別の歴史、スターは現在の差別、幼い弟は未来を見つめているようだった。憎しみを与えられた子供の未来にあるのは憎しみだ。過去の憎しみは現在に引き継がれ、今の憎しみは未来へ。

「憎まれることより憎み合うのが罪だ」

心を殴られ、洗われたような言葉だった。
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