凛

凪待ちの凛のレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
4.0
白石和彌監督のオリジナル作品。

震災後の石巻を舞台に、大きな喪失感と後悔の念を抱えて生きていかなければならない人達の辛さを描くヒューマンドラマ。

郁男(香取慎吾)と恋人(西田尚美)の寡黙な父親(吉澤健)の哀しみの二重螺旋が重なって支え合う。血の繋がらない恋人の娘(恒松祐里)に注ぐ不器用な愛情がもどかしい。
殺人事件の犯人探しも必要だがそれがメインにならないほど、郁男の生き方を見守ってしまう。

凪とは静かな海が全てを包んでくれる意味もあるが、心が平穏になることも重ねて意味している。
大きな衝撃を受けた彼らは心の凪を待っている。

郁男を巡る人達の畳み掛けるような意外な不条理な出来事に自暴自棄になり暴力やギャンブルに走るが何故か見捨てられない。不思議と手を差し伸べてしまう危うい魅力があるのかもしれない。

香取慎吾の大きな身体が中年男の悲哀を醸し出し、時に子供のように暴れ、その都度自分に失望する。アイドルだった面影を完全に消し去っている。

俳優は誰もが背負っている問題の重みを感じさせる適材適所。
特に吉澤健が一瞬の凄みをみせて素晴らしい。
白石作品に欠かせない音尾琢真も地元に根付く恋人の元夫のいやらしさを出している。

震災の傷跡は全然癒えてなく、原発疎開で川崎に越した娘は放射能がうつると引き篭もりになり、石巻へ舞い戻る。
借金が嵩んだら原発の除染に行けと言われる。

全体的に昭和の香りが漂う画面作り。
人の悪意も赤裸々に織り込んで、田舎が全て良いわけではないことも。
凛