翼

アルキメデスの大戦の翼のレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
4.3
「私にはね、あの船が日本そのもののように見えるんだよ」
この言葉の真意を知る時、まったく違ったエンディングを思い知ることになる。
「巨大戦艦を建造すれば、過信から日本は戦争を始める」と謳う山本五十六の言葉が動機となり仕事を引き受ける櫂直 。彼がエンディングに向けて苦渋の決断を下す動機が、五十六の言葉と全く矛盾する解釈となって幕を下ろすという皮肉。この計算された筋書きは、完成された公式のように美しい。

中盤まではイミテーションゲームよろしく、戦争に於ける陰謀を若き数学者が暴こうとする物語。これはこれで面白い。大志を抱く若者の熱意に看過され協力者が一人また一人と増えていく池井戸潤的な構成は最早鉄板のフォーマット、面白くないはずがない。
そこから一転、敵対勢力の製造責任者、平山忠道の思惑の告白から一気に加速する展開はなかなかに魅せる!だからあんな不遜な態度だったのね、とか過度にならない程度に引っかかる要素をきちんと回収し解けていく様は公式が解けた時のような開放感さえある。
設計者たちの脳内で描かれる戦艦の設計と戦争の行く末。アルキメデスの理で算式によって導き出される結論が物語る日本の未来。憂うでもなく叫ぶでもなく、自分が生んだ子を想う視線でヤマトを見、涙を流す様はこの物語を綴じるに相応しい終幕だった。

確かに浜辺美波の顔面のパースは保存して国立博物に展示してもいいと思う。
翼