ひでやん

ナイチンゲールのひでやんのレビュー・感想・評価

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
3.8
翼を折られたナイチンゲールと、巣を奪われたクロウタドリが、イギリスという籠の中で美しく鳴く。

きついわ…。黒く重い感情が胸中に流れ込み、それがどんどん溜まっていった。将校ホーキンスの鬼畜ぶりに胸やけし、ソルマックが欲しくなる。すうっと胃を楽にしてくれるその薬ってのは復讐である。栄転を完全に潰す天罰や、滅多刺しの仇討ちを心の底から願い、「こんなクソ野郎は死んじまえばいい」と思った。彼女の復讐がカタルシスをもたらしてくれると。

将校の部下に復讐した時、それはそれでキツかった。人を殺すという残虐な行為に対してもそうだが、「殺してくれ」と願った自分に対してもキツかった。もう殺しは見たくないやと思いながらも、生き延びている将校の死を願う。コイツだけは逃がすんじゃねえと思わせたサム・クラフリンの悪役ぶりは見事である。

英国植民地時代のオーストラリア・タスマニア。そこは入植者が先住民を一掃するブラック・ウォーの真っ只中で、男女比が8:2となった流刑地。迫害、レイプ、虐殺…アボリジニにとっても女性にとっても「生き地獄」の島で描く復讐の旅。窃盗で流刑囚となったアイルランド人と、案内人となった先住民、交わる事のないような2人だが、何もかも奪われた2人。互いに警戒し合っても怒りの矛先は同じで、共通の思いで変化していく2人の描写がとても良かった。

復讐の失速は賛否が分かれる所だろう。終盤のシーンがもたらしたのはカタルシスではなくフラストレーションだった。本性を暴く力と書いて「暴力」。それが女性が持てるリアルな力のように思えたりもした。
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