ノラネコの呑んで観るシネマ

ある画家の数奇な運命のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
4.6
3時間越えを全く感じさせず。
ナチス時代のドイツ。
主人公は美しく感受性の高い叔母の影響で、幼い頃から芸術に興味を抱く。
しかし心を病んだ叔母は、ナチスの政策で“安楽死”させられてしまう。
現代美術のゲルハルト・リヒターがモデルらしいのだが、どこまでが虚でどこまでが実なのかは不明。
イデオロギーは芸術を殺す。
ナチス政権下でも戦後の東ドイツでも、「我」は否定されて芸術家は全体のために奉仕しなければ生きていけない。
主人公は西側に脱出して、初めて本当の創作ができる様になるのだが、それはイコール自分の世界を探す苦難の始まり。
叔母を殺した医者が戦後妻になる女性の父だったり、ナチスの犯罪が物語にバックボーンにあるのは間違い無い。
ただ、戦争犯罪の要素は最後まで前面には出てこない。
これは意識しないうちにドイツの闇を背負った主人公が、原題の「作者なき芸術」という新しい世界に辿り着くまでの物語。
本人たちが知らないうちに、過去の因縁が主人公の芸術作品として発露するあたりは、実に映画的なカタルシスがある。
叔母のエピソードは、ナチスによる障害者虐殺を描いたフランツ・ルツィウスの名著、「灰色のバスがやってきた」を思い出したな。