シュローダー

ROMA/ローマのシュローダーのネタバレレビュー・内容・結末

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

最早溜息しか出ない程、ひたすらに美しい。「映画」という、スクリーンの中に広がるもう一つの世界を、これ以上なく表現しきった作品は無いだろう。1970年のメキシコシティ。中流階級の家で家政婦を務めるクレオが過ごす激動の1年を描く。この映画については、どこから語って良いものかわからないが、やはり撮影の素晴らしさに尽きるのではないか。モノクロの映像には、確かに世界の色や感情が刻印され、光が差し、水が流れている。アルフォンゾキュアロン自らがカメラを構えたという映像は寸分の隙も見せない。彼のトレードマークである長回しは、全編に渡って発揮され、観客を釘付けにする。特に白眉となるのはタイトルバックだ。ひし形がシンメトリックに並ぶ床に水が流れる事で、水たまりに反射する空と空を飛ぶ飛行機が見えるあの惚れ惚れするカット。この時点でこの映画が"水"と"光"がトレードマークの映画である事を端的に、尚且つ完璧に示している。暴動シーンの迫力も凄まじい。そしてもう一つ、この映画が他の追随を許さないポイントが、音響の素晴らしさだろう。犬の声、鳥のさえずり、ラッパの音、車の音、人の喧騒。それら全てが「世界」を構成し、物語の一部になる。ここまでの領域に到達してくれる作品は中々お目にかかることは出来ないだろう。物語も、「人間」の姿をありありと写しながらも、最終的には「人生賛歌」へと着地する。モチーフの対比が非常に巧みなのも素晴らしい。前述した水たまりに反射する空のカットは、ラストショットの屋上に広がる青空と対になっている。また、お腹の子供を救えなかったクレオが、海、即ち"胎内"で溺れる子供を救い、「家族」の一員となる展開も非常に感動的だ。また、この映画にはちょくちょく「飛行機」が登場する。個人的な解釈だが、あれは空からクレオたちを見守る"神"の象徴ではないか。もしくは、この映画で提示される「冒険」という人生観に照らし合わせるならば、自らでハンドルを握る車との対比として機能しているとも言える。総じて、劇場でこの映画を観られないのは本当に惜しまれる事態であると忌々しく思う映画である。アカデミー撮影賞 音響編集賞 録音賞は確実であろう。作品賞も十分ありうると思う。今年度の映画で言えば、「万引き家族」との比較も興味深い。特に海のモチーフの使い方は非常によく似ている。これぞ同時代の映画の醍醐味では無いだろうか。ラストショットで出る字幕「リボへ」とは、アルフォンゾキュアロンが実際に育てられた女性の名前であり、この映画が監督の半自伝的な作品である事を示している。そしてそれは「トゥモローワールド」や「ゼログラビティ」で示されてきた「人間賛歌」のテーマ性の集大成であり、アルフォンゾキュアロンが育ての親の女性たちに捧げたラブレターである。それを想えば想うほどに、胸に巣食った余韻が消える事は無い。愛に裏切られた2人の女性が「家族」となるまでの軌跡。魂に響く大傑作。