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冬時間のパリのKKMXのレビュー・感想・評価

冬時間のパリ(2018年製作の映画)
3.9
初アサイヤス。名匠と聞いていたためアンチポップで重厚な作品を期待したものの、浮気を軽く描いた艶笑噺でした。
鑑賞直後はイマイチでしたが、反芻すると結構面白い。後からジワる感じが趣深いです。これがエスプリか!


一応、2組の中年夫婦の浮気話と、主人公たちが関わっている出版業界の電子書籍化の話が並行に描かれます。
本作は会話劇で、会話自体はたいして面白くないのですが、浮気カップルの話はなかなか興味深かった。

浮気に関しては、メインの4人中3人がしているため、シビアな罪悪感みたいなものは特に伝わらず、実際にシリアスな展開もありません。みんなしてるから深刻なものではないのでしょうね。まさに不倫は文化だ!
ケリのつけ方もそれぞれの価値観に基づいてなされるので、多様性を包括するナゾの懐深さを感じました。本作の登場人物はみな社会的地位高めであり、カネに困ってなさそうなので心にゆとりがあるのかも。


浮気するそれぞれの男が印象に残ります。
出版業界で働くアランは、顔からしてヤリチンで、部下の若いパツキンをいてこましてます。パツキンとアランは電子書籍化について意見が対立しているのに、夜の方はバッチリ!アランが持つ、アッチだけでつながれる夜のスネーク力に恐れおののきました。
そこには、アランの成熟した知性とそれをエロに変換する能力が垣間見えます。アランはパツキンの深層心理を見抜いているんですよ。パツキンはやたらと電子書籍化にこだわって突っ張っているのですが、その裏の繊細さをしっかりキャッチし、上手にプレゼンするんです。オジサンは本当の君を理解しているんだよ、みたいな感じで。これがヤリチン力か、と感嘆しました!アダルトな雰囲気とデリカシーのなさがエロプレゼンのポイントだと感じます。

もう1人の浮気男は私小説家レオナール。ヴァンサン・マケーニュが演じているため、彼は情けなく薄汚いハゲ中年です。しかも自分の情事を小説に書き散らかしてネットで炎上しまくるという、かなり残念な男。レオナールはなんとアランの妻セレナと6年も不倫しているという…なんかもう意味わからなすぎてスゲーですが、レオナールくらい情けない男となれば逆に「この人私がついていなきゃダメだわ💗」みたいになるのでしょうか?
レオナールとセレナの関係は深いつながりがあるようで無いっぽい感じが最高でした!なんなんだお前らの関係は?自分のセクロスがネタにされることを承知でよくセレナは6年もこのクズと付き合ったな。この2人は理解不能でした。
しかし、レオナールの自分のことしか考えてないスタンスは、これぞ私小説家って感じでシビれます。実際、ビジネスパートナーのアランには嫌われて、自己愛的だと批判されてました。レオナールはどこに出向いてもその作風をボロクソに言われていて面白かった。アサイヤスはSNSがアートへの無責任な攻撃を生んでいると危惧を抱いているようですが、レオナールみたいな惨め晒しの芸人は、それも含めてエンタメだと個人的には思います。二ノ宮隆太郎も少しはレオナールのクズ感見習った方がいいかも。


テクノロジー進化の話も主題っぽいですが、こちらはあんまりピンときませんでしたね〜。「変わらないために変わることが必要だ」とかアランがエロプレゼンで言ってましたが、主役たちを見ても特に変わらず、収まるところに収まっただけの話に思えました。
なんかいい事言ってるっぽいけど、その実よくわからないってのも、なんかジワジワきます。


鑑賞後、ル・シネマに展示されていたレビュー記事の切り抜きに『ケン・ローチが頭にきそうな世界観』みたいなことが書かれていました。本作はパリのアッパーミドルクラスのエロ含めたヌルい日常話なので、確かにそうだ、と思わず笑ってしまった。
今度ル・シネマでアサイヤス特集やりますが、本作観る限り、足を運ぶほどではないな。マギー・チャンのラバースーツのガーエーはエロくて面白そうではあるけど。
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