しゃび

ラストレターのしゃびのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
4.0
珍しい群像劇だ。

構造としては、
「人物の不在による周囲のどよめきを描く」という意味で『桐島、部活やめるってよ』にも似ている。

ただ、珍しさはそこではない。
人間関係がほとんど描かれていないのだ。

乙坂鏡史郎がなぜこれほどまでに未咲を想い続けるのか。
未咲と鮎美の母子関係はどのようなものであったのか。
未咲の人生を狂わした阿藤という男。
鮎美と颯香、従姉妹同士の関係性。

未咲と周囲の関係性も、
周囲それぞれの関係性も描写されていない。

彼らの間にどのようなストーリーがあり、どんな関係性が生まれたのか。

「ただ、そのようなものであった」
以上の説明がない。

考えようによっては陳腐な映画だ。
観客は映画の世界と全くコンテクストを共有できないのだから。


しかし、不思議と没入感がある。
確かに映画の中にぼくは居ると感じたし、愛着が湧く。

ストーリーという分かりやすいコンテクストではない、繋がりを感じる。

観客とこの映画を繋ぐものは何か?

それは「場」だ。

廃校舎、実家、とある老人の家、未咲がけっして幸福ではなかったであろう日々を過ごしたアパート、地方の新築一軒家。

生活の場が、
生活の場であった場所が、
具体的なエピソードを超えた説得力を持たせる。

つくづく映画は脚本ではなく、映像と音なのだと感じる。

キャストもすばらしい。
脚本からは読み解けないもやっとした感情を、安易に含みを持たせることなく演じている。

高みに昇りつめた印象の松たか子、
本当に分かりにくい役を分かりにくいままに演じている広瀬すず、

脚本に依らずに、ちゃんと伝わる映像になっているのは、監督の表現力とキャストの演技の賜だと思う。



YouTube動画でレビューもしてます↓
https://youtu.be/ZDduyB1rrsM
しゃび

しゃび