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37セカンズのnori8のレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.1
久々に心の奥に届く
素敵な作品に出会った。

産まれてすぐの37秒間
呼吸をしていなかったことで
先天的な障害を負った女性。

好奇の目や偏見、搾取に
さらされながらも
得意なマンガを武器に
人気作家のゴーストライターとして
働きつつ自身のアイデンティティーを
模索する日々…

過保護ともとれる母親の干渉に
嫌気がさし、やがて自ら
“女性としての経験”と自立の道を
探るが、危なっかしく綱渡りの連続だ。

そこまでは障害がもたらすハードルを
ハラハラしながら見守る
ドキュメンタリーのような展開。

ところが…
ふとしたキッカケから
自らの出生のルーツを探るべく
彼女は遠く長い旅に出る。
そこで知った父親の存在、
そして…37秒間の運命を分かち合った
もう1人のかけがえのない命。

それまでの閉塞感を打ち破り
自分の存在の意味をがむしゃらに
見つけようとする主人公・ユマ。

ハンディキャップとの闘いに
いたわりの感情で寄り添っていた
前半とはうって変わって
後半は自然と自らを重ねながら
人生のロードムービーを疑似体験する。

誰の心にもある
生まれながらの環境への不満や
コンプレックス。

37秒の運命を分かち合った
かけがえのない存在との出会いの後
ユマが振り絞るように語った言葉に
心が震えた。

「もし、私が先に産まれていたら」
「もし、私が
 1秒でも早く呼吸していたら…」

「でも………
    ……私で良かった」

この瞬間、自分の心の奥の何かが
弾け飛び、目に見えない呪縛から
解放されたような気持ちになった。

そこで気付いた。
障害を持つヒロインとは
きっと、壮大なメタファー。
彼女の果敢なチャレンジは
自分探しにもがき苦しむ
私たち一人一人への語りかけ
だったのだ。

娘に絶え間ない愛情を注ぎつつ
孤独と葛藤する母親役の神野美鈴、
そして主人公・ユマの人生を変える
キッカケをつくるザックバランな
姉御・渡辺真起子の存在感が圧巻。

リアリティあふれる映像と
主人公の感情の機微を細やかに描いた
丁寧な演出にも好感を抱いた。

決して押しつけがましくなく
自然と爽やかな涙があふれ出る秀作。
先入観なく見て感じてほしい。
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