Oto

グリーンブックのOtoのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.9
(試写会)
ブラックジョークと差別の境界を描いたようなロードムービーだけど、思ったよりエンタメ映画で観やすかったし音楽がずっと良いので『最強のふたり』と印象が近い。

そもそも何故彼は旅をしているのかが、この映画のテーマで、タイトルの"Green Book"がそのテーマの象徴。差別しているのは社会ではなく個人なのに当人は全くその意識を持っていないというのは、きっと今も変わらなくて、時代差・地域差のせいではないからこの映画が評価されてるんだと思うし、「黒人でも白人でも人間でもなければ俺は何者だ?」という魂の叫びが響いた。肌の色だけじゃなく、言語とか音楽ジャンルとかあらゆるものが差別のきっかけになるという恐ろしさを感じた。

最後の演奏会で妥協しなかったことがあの幸せな演奏やホームパーティーに繋がったわけでどちらも好きなシーンだけど、この旅の成果は内輪に収まってしまった感じがして、もう少し大きな視点も欲しかったかな。『デトロイト』ほどのインパクトはなかったと感じる。

お守りの石もフライドチキンも手紙も、繰り返し出てくる物の使い方はどれも印象的で、ラストの奥さんの一言も素晴らしいし、トニーの「寂しい時は先手を打て」というセリフも、ドクの「暴力は負け」というセリフも、まさにお互いを補い合っているような二人で良い。

「フライドチキンや臓物料理は、南部の奴隷所有者(白人)たちが、自分たちが食べない骨の多い部分や内臓などの「残飯」を与えられた黒人奴隷が生み出した料理なので、それに南部の白人の顔をつけて売ることは、日本の寿司をほかの民族が作ることとは文化的な意味が違う」と聞いてあのシーンの意味は大きいと分かった。

主演二人がとにかくカッコよくて名演だった。ヴィゴさんは身なりが完全にマフィアで、マハーシャラさんは痛みの伝わる演技。脚本家がトランプの差別発言に便乗したり、ドクの遺族が激怒していたり、監督の下品な過去が暴かれたり、色々問題があるの残念だけど、作家と作品を別物として扱うようにしたいしそうしてほしい。まぁでも総合的に作品賞は『ROMA』推し(だったので残念)。

日本が右翼×朝鮮系のバディで作ったら非常に有意義という提案にとても賛同するけど、一方でスパイクリーやブラックパンサー勢のように「一面的だ」「マジカル・二グロだ」と怒る人もいるという事実は無視できない。新規性はあるにしても『ドライビング Miss デイジー』『フォレスト・ガンプ』が批判された時代と本質的には変わらない…。
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