しんご

グリーンブックのしんごのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.6
バディ物のロードムービーにおいてここ最近の中でも群を抜いた名作。本年のアカデミー賞作品賞も納得だし、個人的には主演男優賞をヴィゴ・モーテンセンにあげたいなと思った。

「静」と「動」の見事なキャラクター対比が序盤から心を掴む。「動」担当のトニー・リップはイタリア系の用心棒。家族・友達を大事にする心根の優しさがありながらガサツで喧嘩早く大食漢で発想が場当たり的、おまけに人種差別意識が強いときた。黒人の使ったグラスをさり気なくゴミ箱に捨てるシーンにそんな性格が表れているし、こんな細かい箇所に日常的な差別が盛り込まれる演出は流石。

そんなトニーが「静」たるドクに邂逅する所から物語が加速度を付けて面白くなる。60年代のアメリカにおいて、ブルーカラーではなく理知的で己を律する孤高なドクはトニーと見事な対称を成している。

そんなドクも心には複雑な感情が去来する。余談だが、自分にはレズビアンの友人がいる。彼女が日常生活する中でやるせない気持ちになるのは、「この人もレズだからきっと仲良くなれるよ」と友人知人に言われる時とのこと。曰く「レズビアンも色んな環境で暮らしているから性格が皆違うしレズ同士でも合う合わないもある。でも、ストレートな人達は世間的にはマイノリティに該当する同性愛者を一つの枠で括ろうとする。善意から言ってくれるのは分かるけどたまにそれが辛い」と。

教養に溢れ上流の暮らしを送るドクはウェイターや召使、あるいは農夫など「使用される側」であった当時の黒人とは一線を画する存在で、そんな格差が彼のアイデンティティーに暗い影を落とす。黒人でありながら同じ黒人からも距離を置かれる彼の孤高さをスクリーンで見ると、同じ人種でも一枚岩な関係でないことを痛感するし、先ほどの自分の友人の話とリンクする。

そんなドクがトニーと旅をすることでお互いの様々な壁が「融和」していく過程が本当に痛快。ラジオを通してリトル・リチャードやアリサ・フランクリンを教え、ケンタッキーフライドチキンを渡しながら庶民のライフスタイルを説くトニーの笑顔が本当に素敵で眩しい。対して、トニーもドクより教養を学ぶことで暴力に頼らない生き方を覚え少しずつ人種に寛容になっていく展開も心が温まる。奥さんに書く手紙のクオリティが少しずつ高くなっていくシーンが凄い好きだった。

そんな2人の友情がクリスマスに向けて結実していくラストには心から穏やかな涙が零れた。「メリーに首ったけ」(98)、「愛しのローズマリー」(01)とライトなコメディのイメージがあったピーター・ファレリー監督がこんなに滋味深いドラマを描いたことに驚いたけど、よく観てみるとピーターのライトな笑いのセンスが本作のテーマを重すぎず観客に伝えていたからその点は確かに彼らしいなと。

「勇気が人の心を変える」「寂しい時は自分から動かなきゃ」...文句なしの名言です。
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