半月板損傷

グリーンブックの半月板損傷のレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.4
相手と意見の相違があった場合、相手にその論拠が "ない" のが一番厄介で、「なぜ?」と聞いて「なんとなく」って言われちゃうともう意見のすり合わせのしようがない。

「なぜこのトイレを使えないんだ?」
「そういうもんだから」

「なぜ彼はあの席に座れないんだ?」
「そういうもんだから」

当たり前にありすぎて気にもしてなかった無意識の差別。
この映画を観ていてそんな思考停止ともとれる"無意識の差別主義者"たちの姿にモヤモヤしたり、それを問い詰められてアホ面で困惑する姿にイラッときたり、ぶっ飛ばされていい気味だと溜飲を下げたりするわけだけど、おれ自身は過去どうだったか。
「そういうものだから」
という論拠にならない論拠で無邪気に誰かをラインの向こうに追いやったことが全くなかったと果たして言い切れるか。
冒頭でトニーが黒人の使ったコップをゴミ箱にポイするのも、おそらく本人的にはそんなに深い意味もなくて。
そういう世界で被差別者として生きていくってことがどういうことなのか。どう頑張っても、黒人の気持ちは黒人にしかわからんとは思う。
いやそれどころか黒人でもそれを知らないと揶揄される層もいて、そいつに
「黒人でも白人でもないなら俺は一体何者なんだ?」
と慟哭されたら、掛ける言葉も見付からない。
差別って本当に難しくて、真に理解するのちょっと無理なんじゃねえかと思えてくる。
...けど、とりあえず"ニガー"って呼ぶのやめて、パーティーに招き入れる、それでいいんじゃね?っていう。

貧しい白人は、リトル・リチャードもサム・クックもアレサ・フランクリンも知らない黒人音楽家にフライドチキンのウマさと裏通りの歩き方を教え、
裕福な黒人は、字もまともに書けない粗暴な白人に「暴力は敗北だ」と諭し、ロマンチックな手紙の書き方を教授する。
単に黒人か白人かというだけではなく、貧富や社会的地位の格差の要素でねじれていて、互いが影響し合い、互いが視野を広げていく話であり、白人が一方的に黒人に説教する話でもなければ、強い白人が弱い黒人を助ける"白人救世主"といった短絡的な話でもない。
もしそう見えるとすれば、その目にこそ、ある種のフィルターがかかっているのではないか。

ラストの一言もいい。
”デタラメが得意”なトニーでも、女房には全てお見通しだったというね。
旦那からのロマンチックな手紙をわが子や近所のママ友に向かって嬉しげに読み上げていたのは単なる「愛されてる自慢」だけじゃなくて、旦那と雇い主との関係性、旦那の黒人に対する認識の変化を察し、それが嬉しかったのに違いない。
この奥さんどっかで見たことある人だと思ったら「ER緊急救命室」の後期シーズンでシングルマザーの看護士やってた人ですね。

総じて良かったです。
こういう重いテーマを"楽観的にすることなく見やすくする"って結構な力量が必要だと思う。
開始5分ほどのちょっとした展開だけで特に説明もなくこのいかついオッサンがどういうキャラなのか完全に伝わってきたので、こういう力量のある映画がやっぱ俺は好きだなあ。
音楽の力も偉大(サントラが良いと採点甘くなるんは認める)。