ブルームーン男爵

ジョーカーのブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0
ストーリー構成、音楽、演技、カメラワーク全てが完璧で、非の打ち所がない。ヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞も受賞している。作家性・アート性を重視する同賞が、アメコミ映画に授与されるのは異例だが、本作はアメコミを見事に昇華し、金獅子賞受賞も納得の次元に達している。本作を観た後では、もはやバットマン・ダークナイトすら霞んでしまう。

バットマンシリーズは、主には正義の側からの視点で描かれるが、本作は社会に踏みつけられる弱者の視点からゴッサム(劇中の架空都市)を捉え、ジョーカー誕生を描く。映画は陰鬱とした雰囲気に一貫して包まれ、主人公が精神を病んでいく様には鳥肌がたった。主人公を演じたホアキン・フェニックスはとにかく天才的な演技だった。

アメリカでは、ダークヒーローを正当化しており、危険だとの指摘もあるが、あくまで映画は映画として評価すべきだろう。そのような指摘が出るのは、本作が描くように、アメリカ社会が引き裂かれ、弱者が虐げられ、ダークヒーローの誕生を希求する土壌があるからに他ならない。批判が多いことが、本作の迫真性を証明している。

ジョーカーの暴力にどこかスカッとするのは、ジョーカーが不正義の犠牲者であるからだ。暴力は常に悪なのか?弱者は大人しく虐げられていればいいのか?暴力と嫌悪は連鎖するが、それを断ち切れない社会環境こそが問題ではないか?正気と狂気の境目は?本作は視聴者に様々な問いかけをしてくる。

ジョーカーが踊るシーンは狂気的であるのに美しい。常に醜美は紙一重だ。映画史に名を残す傑作に違いない。

重苦しいので、そういうタイプの映画が嫌いな人には勧めない。
ただ個人的には絶賛の限りを尽くしてもしきれない。
喝采だ、賞賛だ、絶賛だ。