シャトニーニ

ジョーカーのシャトニーニのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.8
「笑顔というものは、本来肉食動物が牙を剥くことに由来している」

チャップリンの歌に合わせ、静かに狂っていく独りの男を描いただけの、唯一無二の映画。そのタイトルといい内容といい21世紀を誇れる名画に思えます。但し、ヒーロー映画じゃありませんしR15でお子様は駄目です

ジョーカーの知られざる過去、他作品でもいろいろ描写や台詞で語られてますが、今回はそういった先入観は要りませんでした。
悪さをして蝙蝠男ウェインに懲らしめられる犯罪者、道楽者と世間では思われておりますが、いまやその存在感は『オペラ座の怪人』『ノートルダムのせむし男』『眠り男(カリガリ博士)』ら奇形ヴィランの系譜に連ねてもいい、憎く悲しくも美しい、物語のギミックとしての必要悪。そもそも出発点が文豪ユゴーの『わらい男』をオリジンにしているのだから、おそらくロマン主義やピカレスクの残滓に違いない。

未見の方にはまずは見てほしいので多くは語るまいとしますが、主演のホアキンフェニックス、一番有名なのは『グラディエーター』の悪の皇帝コモドゥスでしょうか。目ヂカラは彼だけが持つ強力な武器。いつもまっすぐ見据えるはずの彼の目の焦点が、今回ばかりは何をやらかすかわからない、爆弾テロ犯のような危険さを孕んでいる。こわい。パンフに『セルピコ』もモデルにしていたと聞いてうわぁと鳥肌立ちました。

モデルには劇中でも重要な役のデニーロが出演していた『タクシードライバー』の影響も濃いですが、それさえ夢物語に見えるほどソリッドで現実的なジョーカー。

彼が過ごす世界も冷たくて切ない、切れかけの蛍光灯やニューヨークを満たす灰色の空気。コッポラやスコセッシぽい世界。こういう映画は家でじっくり煙でも呑みながら観たいものです。

クリームの「white room」がかかる終盤の場面は、まるでドキュメンタリー映像のようで最高にカッコよかった。『ダークナイト』のスタイリッシュさとは別の、見たかったようで見たくない丸裸のジョーカー映画。

ジョーカーは今日もどこかで生まれているのかも。ニュースで飛び交う犯罪や精神病質の原因に虐待、ネグレクト、過干渉、リストラ、勘当、絶交、失恋、そして無関心。

ジョーカー予備軍は救われなくとも、誰かが寄り添ってくれさえいれば、と思えるような社会派に考える秋の夜長なのでした。


次見るまで見直したい映画リスト(おすすめあればコメントに)
『タクシードライバー』
『カッコーの巣の上で』
『キングオブコメディ』
『セルピコ』
『時計じかけのオレンジ』
『マシニスト』
『パッチアダムス』