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悪魔はいつもそこにのumisodachiのレビュー・感想・評価

悪魔はいつもそこに(2020年製作の映画)
3.8

Netflixオリジナル映画。ドナルド・レイ・ポロックによる同名小説の実写化。原作未読。

オハイオ州ノッテンスティフ。他の町からやってきた戦争帰りの父と町の娘だった母との間に生まれたアーヴィンは、常に余所者扱いされる空気の中で育っていた。そんな中、母が重い病気にかかる。家の外に立てた十字架に向かって執拗に祈る父の願いも虚しく、母は帰らぬ人となってしまった。葬儀の日、父は自ら命を絶って……。

これ↑プロローグ。こういう感じの悲惨な展開がひたすら続く作品だから、最後まで観るだけでもけっこうエネルギーを使う。

本作に出てくる人間は何らかの部分で繋がっている。血で繋がっていたり、場所で繋がっていたり、人で繋がっていたり、繋がり方はさまざまなのだが、とにかく冒頭からラストまで一本の糸が通るようにストーリーが紡がれていく。その糸の周りに幾多の人間の苦しみと死をぶら下げながら……。

世の中には、このような「繋がり」について【偶然】だと思う人と【運命】だと思う人がいる。本作に出てくる人間もその2種類に分類される。神を信じる者と神を否定する者。そして、神を信じる者にも色々ある。狂信する者、神の名を借りて極悪の限りを尽くす者、神の声を聞いて殺戮を犯す者、ただひたすら祈る者、神の言葉だと言われて間違いを犯す者……それぞれにとっての信仰はその姿を変え、一歩間違えれば善と悪の境など簡単に超えてしまう。いや、そもそも善と悪/神と悪魔の間に違いなどあるのか?アメリカの田舎で鬱々と繰り返される悲劇の連続をただただ眺めるしかない観客は、いつしか言葉を忘れてしまうだろう。

本作には、悪魔としか言えないような人物も出てくる。また、いちおうの主人公であるアーヴィンは神を信じていない。ラストまで観たときに、あなたの心にの残るのは【神の不在】だろうか?それとも【神による罰】だろうか?何の罪もない人も、生きる価値もないように見える罪人も、等しく命を落としていく。そこに神の存在を感じるか、神の不在を感じるかもまた、人によって異なるのだ。我々は、すぐそばに神を感じることも、悪魔を感じることもできる。

まっすぐだが父親の影を振り払えない青年を演じたトム・ホランドの抑えた激情も素晴らしかったが、最低牧師を演じたロバート・パティソンが何といっても出色だった。心の底から「今すぐ死んでくれ」と思うゲス野郎っぷり。他のキャスとも豪華で皆上手いし、差し挟まれる作家本人によるナレーションがすべてを寓話性の幕で包み込む。土と血の匂いとアメリカ文学の香りが融合した、ドギツイ作品。こういうのが好きな方にはおすすめ。







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