岡田拓朗

ホットギミック ガールミーツボーイの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

4.5
ホットギミック ガールミーツボーイ

3つの初恋。1つの答え。

これを10代で観ることができていたら、もっと早くに自分の世界が変わっていただろう。
この世界を自分のものとしてもっと肯定的に、前向きに自分の人生を歩めるきっかけになっていたに違いない。

10代の大半の悩みを占めるであろう恋愛において、タイプ(性格)も境遇もスタンスも関係性も雰囲気も、何もかもが違う3人の男性の異なる愛のアプローチに振り回される一人の女性とその女性が空っぽで卑屈になりがちな自分と慣れない恋愛に悩みもがきながら、それでも向き合っていくことで、徐々に変わっていくきっかけを掴んでいき、一つの選択の決断をするまでの過程が描かれている。

その独特の描き方と作られる雰囲気に、並外れたエモーションを感じることができ、一気にこの世界観に引き込まれていく。
音楽の挿入と遠近と高低の使い分け、ロケーション、情景と全てが絶妙でどこか新しい。
ずっとこの世界に入り浸っていたいと本気で思えた。

他者と関わりながらも自分の意思や感情に従って生きることそのものに対しての尊さとそこに至るまでの葛藤と難しさとその過程にある悩みをしっかりと描きながら、(ある人に対しての)確かなる一つの答えに落とし込んでいく類い稀な傑作。

元来それだけ誰かと生きるって、一緒になるって、複雑で覚悟がいることなんだというのが、本作を観たらひしひしと伝わってきていて、五感に物凄い刺激を与えられた感覚。

何も知らないということは、これから何かを知っていく中で、自分がどうにでも変わっていくことができて、何者にもなっていけるということ。
宇宙というのは無限の可能性が広がっていることのメタファーとして何度も使われていた感じがする。

無限の可能性が広がっているように、未知のその人だけに秘められている感情と気持ちと心がある。
自分を知る過程と色んな世界を知る過程で、何者にもなることができる最高の後押しがあった。

まずは何も知らないことを認識することから始まる。
何かしらに落ち着くのでなく、ずっと自分を探求し続ける。
そうするにはあらゆるものに触れて、あらゆる経験をして、その上で自分の感情と意思に正直になって、一つ一つを決断していくことが大事。

その中で徐々に自信をつけて、自分を肯定して前向きに生きることができるようになっていき、自分を更新し続けていくことができ、それがさらに豊かな人生へと繋がっていく。

日々の選択に対して、そんなに深く悩んだり考えることをするなんて生きづらいように思うかもしれないけど、その過程で自分に向き合うことで、その先に確かに何かに気づけて、何かを新たに知ることができて、何かが変わっていく。

その一連の人間ならではの面倒くささに対して、尊いほどのレベル感でありったけの肯定と後押しをしてくれる。
そういう自分を否定するのではなく、むしろそれでいいんだよと、その方がいいんだよと。

まずは自分がどう生きたいか、どうなりたいか、どうありたいか、何がしたいか。
とことんにまで自分の想いに忠実になりながら、それを利害関係なく一緒に作って実現していけると、そこに安心感や安堵感があって、やっとその人と生活を共にしたいとなる。

それでも別にそれ以外の要素にも惹かれて取捨選択で悩むことをも否定しない。
色んな形があるが、山戸監督が出した一つの答えは、まず大前提としてこの世界は自分のものであるというベースを蔑ろにしないことの上に、全てのプラスアルファが乗っかってくるという価値観であった。

誰のものでもないし、誰にも守られないし、誰にも奪われない。自分だけの世界と自分だけの人生。
他者との関わりを通してそれを知りながら、まずは自分であり続ける覚悟、その先に待っていたのが本当の意味で自分を生きるという選択だった。
これからどんなことが待っているのかはわからないが、心の底から初を応援したいと思えた。

本作は誰かには物凄く刺さるだろうが、誰かには全く刺さらないであろう。
でも山戸結希監督の作品はそれでいいんだと改めて思えた。

P.S.
キャストも最高によかったです。
特に主演の堀未央奈、ドSさとその裏側の二重人格を演じる清水尋也、抑えが物凄く効いてる間宮祥太朗、歪んだ愛情の中で諭してくる吉岡里帆、初の逆を生き個を確立しようと奮闘する桜田ひより。
そして全体的に挿入曲が最高で、空気をこれでもかというくらいに作っている。
今作がきっかけでクラシック音楽にハマった。
岡田拓朗

岡田拓朗