わたがし

ジェミニマンのわたがしのレビュー・感想・評価

ジェミニマン(2019年製作の映画)
5.0
【1回目 in 3D+ in HFR】技術とにかく凄い編
 
 監督が望む4K、3D、120fpsの形態で観れなかったのが心残り。3Dで120fpsってだけでこんなにこんなにえげつなく凄いのに、4Kだったらどんな地平線まで連れてってくれるんだろう。どんだけネット配信が栄えようがスマホで映画が観れようが、夢の世界へ連れて行ってくれるのは映画館のスクリーンだけだね!!とか青臭いこと久しぶりに思っちゃうぐらい、3Dの120fpsはすごいすごい映像だった。
 映画館のスクリーンの枠の奥にウィル・スミスがいる、と確信できる没入感、肌で感じれるヌルッヌルの映像に圧倒されるあまり、ウィル・スミスが何か言って字幕が出てきても読み飛ばしてしまう。急激なパン、手持ちカメラの揺れ、役者の顔面の皺の動きひとつで表現される細かい芝居、それらスクリーンの中で起こるあらゆる動き、挙動の全部が100%純度で情報として眼球に送り込まれてくるという快感。(それが映画演出という目的において有利に働いている時もあればそうでないときもある、しかしそんなことはもはやどうでもいい)
 そして、観てるだけで種類のわからない涙が出てくるアクションシーンのにゅるにゅるにゅるにゅるにゅる感。ウィル・スミスの乗ったバイクが建物スレスレで爆走するのを120fpsカメラが執拗に追いかけ続けるショットの、何たる何たる映像体験!!ようやくミッションインポッシブルとかワイスピとかの「被写体の動き早すぎて景色とか何も観えん映像」のストレスから解放されたーっ!!ありがとうーっ!!って気持ち。役者の顔も、バイクも、地面の質感も、背景の建物のディティールも全部確認できるバイクアクション映像ですよ。これを最高と言わずして何を最高と言うんでしょうか??
 そしてそして、120fpsの3D映像との相性の良さ。どんだけカメラがぎゅーん!!って爆走しても、炎の挙動もライフルの閃光も全てちゃんと視覚認識できる。HFR映像の性質上、理屈的にそうなるだろうなとは思ってたけど、実際目の当たりにするとほんとにほんとに泣けるほどすごい映像。こんな視覚情報、この世のどこを渡り歩いてもドルビーシネマのジェミニマンでしか得れない。
 これが映画の進化かどうかはわからんけど、確実に映画という媒体の可能性を広げたと思う。これをブロックバスター商業でやることに意義がある。特にマイケルベイとサムライミは今後是非とも120fpsで3D映画撮ってほしいなあ。これからも、こういう誰も観たことのない画期的な映画、目玉がひっくり返るような映画がこの世にぽんぽんぽんぽん生み出されいきますように。テクノロジーの進歩によって映画がもっともっと物凄い魔法になりますように
 普通の映画館、ドルビーシネマでジェミニマンの予告(24fpsの2D)観た記憶と本編を比較すると、ほんとのほんとの冗談抜きに雲泥の差がある。完全に同じ映画じゃない。「120fps3Dでジェミニマン観に行こう」って誘われたらあと3回か4回は観に行くけど、「24fps2Dでジェミニマン観に行こう」って誘われたら相手が吉岡里帆だったとしても断る。それぐらい全然違う。みんな120fps3Dでジェミニマンを観よう、きっときっと、ちょっとだけ「3D映画も悪くないな…」と思うはず…
 3DもHFRも過度期なのです。まだまだ発展途上なのです。まだまだいろんなクリエイターの手で遊ばれるべきツールだし、未知なる可能性を秘めている。それを1本か2本観ただけで「ああ、なんか無理」とか「目が疲れる」とか言って観る側が早々に見限ってたら咲くはずの花も枯れてしまう。新しい映画を応援して、新しいものを欲すれば、おのずと世は新しい映画、新しい価値観にあふれるはずなのです。
 観慣れたもの、知っている俳優、知っている監督、馴染みのフレームレート、その枠にはまってたほうが精神的にも安心するし、穏やかな気持ちになれるし、何より失敗しない。だから日本の配給会社はそういう需要を汲み取って今までの統計上で最も安パイなポスターを作るのです。何の話をしてるんでしょう。ジェミニマン最高!!ウィル・スミスが二人いてすごい!!


【2回目 in 3D+ in HFR】技術とストーリーの絡みもエモい編

 この映画、2000年代前半の量産型アクション大作を現代の最新テクノロジーと120フレームのハイパーリアルな3Dで蘇らせようぜ!!という確固たるコンセプトの下、本当にそれだけをモチベに作られた映画なのではないかと思うと怖くなってくる。ハリウッド大作たくさんあれど、この映画だけ目指しているゴールがあまりに違いすぎる
 カメラワーク、アングル、役者の動線、ロケ地等、映画制作過程でのあらゆる選択が「ストーリーを語る」ためではなく「HFR3Dの素晴らしさを伝える」ためになされているとしか思えない。対話シーンで全く相手の肩をナメない3D映画としての思いきりの良さ、やたら暗所の狭い所で光を灯してHFR3D映像は暗所でも鮮明だということを主張、カメラは何度も何度も海やら湖やらに沈む。
 そうやって丹念に丹念にHFR3Dのポテンシャルを最大限に生かしてプレゼンに腐心、実際に語られるストーリーは2000年代前半のブロックバスター映画崩れ。つまりこの映画、90年代終わり~00年代前半(CG革命期)の頃の映画の中の世界に、2019年の最先端テクノロジーを使って飛び込み、思う存分に体験しよう!!という映画。謎需要すぎる
 でも「描く世界、ストーリーの中に引きずり込んで受け手に体験させる」というのは漫画にも小説にも音楽にも出来ない映画という媒体の使命なので、この『ジェミニマン』という映画、ほんとに映画の中の映画だと思う。映画館で観てもスマホで観ても何の印象も変わらない面白さが保障されているような安パイ映画の何倍もかっこいい。ゼロ年代ノスタルジー万歳!!
 そして2回目にしてようやくちょっとだけストーリーが面白いと思えてきた。基本的に出てくるキャラクターの台詞の9割が説明 or 説教台詞、残りの1割がおもんないギャグという素晴らしい脚本。兵士にとって恐怖や不安は敵である(アフターアース論再び)とか、クローン人間の倫理的是非みたいなテーマはまさにCGで丸ごと若いウィル・スミスを作って戦わせる『ジェミニマン』という映画の存在そのものにも関わってくるという。しみじみといい映画だなあ
 そして究極の童貞映画。この映画での「だからお前は童貞なんだよ」の理屈が「だから映画は24フレームじゃなくて120フレームで撮ったほうがいいんだよ」論に繋がるような気がして、偶然の部分にしても意図的な部分にしてもHFR3Dという技術と語られるストーリーがリンクする瞬間が多いのがエモい。感情に訴えながらステマするという究極のPR映像。映画はまだまだ未知なる可能性に満ちているね!!


【3回目 in 3D+ in HFR】映画の未来まで考えちゃう編

 3回目にもなると120fpsに身体が慣れてきて、むしろ24fps映像(特にスカイダンスのロゴ映像!)のほうがとてつもなく不完全なものに思えてくる。結局24fpsは現場で起きていることをより良く見せるための格好つけ、誤魔化しに過ぎないし、ありえない「嘘」をあらゆる手段を駆使して「事実」のように語る映画という媒体が本気を出す(嘘と向き合う)なら絶対に120fpsでしょ!!っていう。
 恐らく今後の「映画」というのは、最先端テクノロジーとありったけのお金で創られる一大イベントのような「体感映画」、配信でいつでもどこでも手軽にながら観できる「鑑賞映画」の二種の分断がよりズンズン進んでいくと思うけど、まず前者は全て120fpsになればいいなあと思う。そして「映画」としての体感の果てがもっともっと追求されて、受動的に体感できる冒険のマックスを目指してほしい(能動的に体験できる冒険のマックスはゲームやVRで推し進められる)
 そして後者は120fpsとかそんなんではなく、そのまま「配信映画」としての独自の進化が求められると思う。より鑑賞に体力を使わない、肉眼さえ使わなくても楽しめるような手軽さが追求される。そんな未来をぼんやり想像してしまう。未来をぼんやり想像させる映画、ほんとのほんとの意味でSF超大作だと思う。ありがとうありがとう
わたがし

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