カツマ

ハイ・ライフのカツマのレビュー・感想・評価

ハイ・ライフ(2018年製作の映画)
3.7
シュルレアリスムのような宇宙。メタファーで埋め尽くされたミニマルな美醜。それはまるでポール・デルヴォーの絵画の中で横たわる女性のように、空間そのものが浮世離れしているように思える。しかし、ディフォルメされたそれらは俗世界への痛烈なるオマージュであり、SF映画の程を為した牢獄を模した社会であった。彩るのはアンビエントな静謐さ、それは無のような音響の波間を漂い続ける物語。

これは『ガーゴイル』『パリ、18区、夜』など、その数々の作品群で一筋縄ではいかない異端の個性を発揮してきたクレール・ドニ監督の新作だ。主演にロバート・パティンソンを起用していることからも暗示される通り、今作ではフランス語ではなく英語を採用。となるとハリウッドスケールのSF映画が炸裂するのかと思いきや、そこはやはりクレール・ドニ、その世界観は完全にフランス映画のそれであった。

〜あらすじ〜

宇宙ステーションに残された男、モンテ。彼はまだ幼い娘と共に、行くあてもなく宇宙を漂い続けていた。本来、その宇宙ステーションはブラックホールからエネルギーを抽出し、地球へと持ち帰るというミッションを担っていたはずだった。果たして宇宙ステーション内で何が起き、モンテは残されることとなったのか・・。
時間は遡り、フラッシュバックするかのごとく、モンテの記憶は巻き戻る。かつては宇宙ステーションには数多くのクルーが乗っており、彼ら彼女らに共通していたのは全員が死刑囚、または終身刑を宣告された受刑者ということであった。そのメンバーの中にディブスという女性医師がいた。彼女は何故か人工受精での子作りに固執しており、ステーション内の男女を使い、自らの願望を満たそうとしていて・・。

〜見どころと感想〜

一見すると意味不明な映画ではあるが、実は比較的分かりやすいメタファーだらけの映画であり、宇宙空間という特殊な設定はそれらを邪魔しないための舞台装置のようなものだと思われる。密閉された空間で起こる犯罪行為の数々は、宇宙の片隅にあってこそ生々しく人間の醜さを象徴し、欲望に抗うことしかできない人類の弱さをも強烈に暗示しているかのよう。

ブラックホールのシーンもまたメタファーであり(考え過ぎると胸糞ではあるのだが)、この映画の終わりには相応しかったように思える。ハイライフというタイトルバックが完全に出落ちのように皮肉であり、タイトルの文字の隙間を落下していく人間たちが一瞬美しく見えてしまうことにもゾッとした。

官能要素をほぼ一手に引き受けているジュリエット・ビノシュ、受刑者という設定がやたらとハマるミア・ゴスなど、キャストも癖のある人選で固められ、カルト臭を押さえる気などさらさらないと言いたげな異端で不可思議な犯罪パターン集のような作品でした。

〜あとがき〜

この映画は設定へのダメ出しはある程度目をつぶってほしい作品です。そもそもブラックホールに行ってエネルギーを抽出するぞ!という行為自体がラリっているので、そのあたりからツッコミ続けると拉致があかないのです。ここはもう広い心で受け入れて、この映画がメタファー映画だという事実と向き合いながら見たほうが楽しめるかなと思いますね(笑)

最後に特筆すべきなのはアンビエントな音響音楽でして、これが宇宙空間を演出する上で絶大な効果を上げています。タルコフスキー的な世界観はもちろん感じるわけで、メタファーとSF映画との相性の高さも感じることができましたね。
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