しんご

運び屋のしんごのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.0
このシナリオはクリント・イーストウッドへの完全な当て書きですね。多分本人も「俺がやらなきゃダメだろ!」って絶対思ったよこれは。監督・主演イーストウッド、脚本ニック・シェンクといえば言わずと知れた「グラン・トリノ」(08)コンビですが、11年を経てまた素晴らしい素材を見つけてきましたね。

本作の主人公アールは1日しか咲かないデイ・リリー栽培の達人で数々の賞に輝いた園芸農家だけど、仕事を優先するあまり家族との間に大きな溝がある男だ。ここでアールの娘役に実娘のアリソン・イーストウッドを配置する辺りが本当に渋いし、この時点で「アール=イーストウッド自身」という構図が明確に観客に提示されている。10代から仕事一筋、70年代には有名な愛人ソンドラ・ロックも抱えた波乱の彼の人生はなるほどアールに通じるものがある。

そんなアールもネット社会の台頭により職を失い、孫娘の式場資金を集めるために知らず知らずの内に麻薬の運び屋の仕事を始めることになるが...。

運び屋の仕事をする中で少しずつ覇気のあるお爺ちゃんになっていく緩い「ブレイキング・バッド」感があるのもクスりとくる。あからさまに車が新車になってたり、89歳の爺ちゃんになっても若い女の人が大好きなアールはもう完全に役柄なのかイーストウッドの地なのか分からないほど笑。

そんなコミカルさを経ての後半への畳み掛けのテンポの妙。ブラッドリー・クーパーと何処で会うの?と思いきやのあの邂逅シーンは格好いいし、アールの家族への謝罪は胸に来た。お金を使わなくても真摯に向き合えば雪解けは訪れるものだし、あのシーンを実の親子で演じているのがまた良かった。

重く渋い「グラン・トリノ」に比べて爽やかに楽しめる作品。
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