ひでやん

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のひでやんのレビュー・感想・評価

4.1
オマージュに満ちた屋敷の中で、予定調和を壊す遊び心。

洋館、富豪の死、一族全員容疑者で名探偵登場という王道ミステリー。既視感を覚えまくっていると刑事が「ベタなミステリーの舞台みたいだ」というから笑った。容疑者それぞれに動機があり、探偵の鋭い洞察力で嘘を見抜いていくのかと思いきや、嘘つくとゲロを吐いちゃう体質によって腕の見せ所なし。巧みな叙述トリックを期待していると、開始30分で事件当夜の様子をあっさり明かしちゃう。「足音」の使い方がいいね。

能ある鷹の爪を切り、推理の醍醐味を奪い去る予定不調和が憎い。依頼人が不明のままという点が気になりつつ、事件の様子は全部見ちゃった気になる。決して失敗できないゲームを遂行するか、崩されるかという展開になり、最後に用意したどんでん返しは見事。アガサ・クリスティに捧げて執筆したオリジナル脚本というから成程、現代版アガサという感じだ。

序盤はスロンビー家の親族、家政婦及び看護師という相関図を頭に叩き込むのに苦労したのだが、豪華な俳優陣の演技力によって個々のキャラが立っていた。その曲者揃いが遺産相続を巡って繰り広げる愛憎劇は醜くて、そして滑稽。その姿はまるでリビングに飾られたオブジェのようだ。無数のナイフが円形状に飾られたそれは、言葉のナイフで傷つけ合う一族を表しているようだった。

予想を裏切る展開を楽しみつつ、自分なりにあれこれと推理。爺さん生きてたりして…とか、もしかして犯人は犬?なんて深読みをした。屋敷の方からスローモーションで走ってくる2匹の犬、そのオープニング映像がラストシーンとなり、よく見ると犬が拮抗薬を咥えている…いや、オモロいけど無理がある。裏の裏は表みたいなオチが上手い。参ったぜ。

印籠を出す場面がまったく無かった格さんが、やっと出番だと張り切るように、終盤で一気に畳み掛ける探偵さん。ダニエル・クレイグの探偵はいい味出していた。
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