Kachi

ウエスト・サイド・ストーリーのKachiのレビュー・感想・評価

4.5
【分断と和解を描くミュージカル再び】

スピルバーグ監督がなぜこのタイミングでWest Side Storyを撮ったか?1961年の初演から2021年と60周年ということを抜きにして、その意図に思いを巡らせながら劇場へ。

この作品が描く移民と白人の分断は、未だに健在であるという厳然たる事実。それがこの物語を再び撮り直した理由であろう。トニーとマリアの悲恋を扱う現代版ロミオとジュリエットであることを超えて、往年の名作は皮肉にも白人と有色人種が縄張り(テリトリー)を巡って反目し合う現実が今なお続いているということの象徴となってしまった。「昔は出身地や肌の色の違いだけで、こんなに恨みあっていたんだね」と笑って語れる過去の話となっているべきだった。そんな想いが作品から滲み出ていた。特にバレンティーナ叔母さんの独白部分は、本作の核心とも言える。

カメラワークにもその一端は窺える。二つの集団の決闘シーンは、両者を左右に対置させる構図を常にとる。どちらか一方が善で、もう片方が悪であることはないと、私たちに視覚的に印象付ける。

マリアはやはりマリアであった。その意味は、聖母マリアでありまたマグダラのマリアという意味で。対立を防ぐことは出来なかったが、両者を赦すという点において、彼女の名前はマリアでなければならなかった。

最後に…本作の音楽は、カラヤンとセットで指揮者の二大巨匠と言われたバーンスタインによる。彼の音楽を大きなスクリーンと素晴らしい音響で堪能できるという贅沢は、基本的にはこの上演中限り。

この物語が皮肉にも現代的であるという事実に向き合いながら、バーンスタインの音楽を讃えるという鑑賞姿勢が私にはちょうど良かったのかも知れない。
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