翼

ウエスト・サイド・ストーリーの翼のレビュー・感想・評価

4.8
スピルバーグ監督の、レナードバーンスタインとスティーブンソンドハイム、ロバートワイズ監督への最大の敬愛を感じる。
1961年版で叶わなかったシーン毎の丁寧な説明と新しい解釈を加えながらも、敬意を持って元の楽曲を尊重するアレンジの全て。
よりヤンキー味の強いリフと激情型のベルナルドの新キャスティングの意図は、抗争の続くギャングのリーダーとしてよく理解できるし、中心となるマリアとトニーは歌唱演出から台詞まで、主要な原作を忠実になぞっていることにも鳥肌。ミュージカル現役時代にステージで『tonight』を歌うにあたり、何十回と歌唱を分析して覚えた私にはわかる。A.Bメロでは高低差をつけた高さと距離の表現。Cメロはアダージョで距離を縮めてアッチェレランド→同じ空を見つめながらのユニゾン。語りをはさみ、Dメロで細く永く、蝋燭の火が消える名残のように響きを残して綴じる。振り付けからダイナミクスの細部まで原作の通り。流石は映画オタクのスピルバーグ、愛が凄い。

本作で最も取り上げるべき楽曲は『One hand.One heart』だと思う。
二人が訪れた教会で誓いを立てる歌。カデンツァのような宗教的な響き。レイチェル・ゼグラーのクラシカルで美しく真っ直ぐな響きに、アンセル・エルゴードの優しく強い響きが重なり糸を紡ぐ。成程、この響きを重ねるために選ばれた二人なのだろうと納得させられる完璧なハーモニーとキャスティング。
極めつけは1961年版のアニータを演じたリタ・モレノによる『Somewhere』。彼女に歌わせるとは…確か1961年版では歌だけ吹き替えだったはず。想いの厚みが違う。
主軸の二人の愛の行方だけでなく、プエルトリカンたち移民のアイデンティティをここでは無い何処かへ委ねるような歌唱は魂を震わせる。

原作を寵愛しながら、エンターテイメントとして畏れずにそれを超える提案をするスピルバーグに任せて良かった!!!と心から言いたい。(何様)

劇場で観るべきだった…そこだけ激しく後悔…再演あるなら必ず行くので!!頼むぞディズニー!!!(何様)
翼